第168話 貫くだけです

 祭くんが応戦してきた。

 準決勝でみせた水圧のレーザービーム。

 それも目と鼻の先の至近距離で、私の側には回避のすべがない。


 重力操作で水流の軌道を曲げるにしても、限度がある。

 この距離では間に合わないと、私はとっさに判断した。


 逃げられない。逃げる気もない。

 退路はない。退路なんて、必要ない。


 私にできることはまっすぐに進み、祭くんに想いを伝えるだけだ。

 私にできることは、この力の限りを尽くして、彼に切っ先を届かせるだけだ。


 重力操作――

 重力湾曲の力場を展開して、私はレーザービームから身を守る。

 それだけではない。

 重力の力場を刀に付与して、私は真っ向から水の奔流を切り裂いていく。

 準決勝で風谷オサムさんがやったように、水圧のレーザーを逆に貫くのだ!


 祭くんはきっと「なにかんがえてんだこいつ」みたいな顔で私を見ているんだろうな。

 彼はすぐに表情に出るから、考えていることがわかりやすい。


 だけど、祭くんの本心に触れることは、私にはついぞできなかった。

 上っ面ではない、祭くんのやさしさの裏側にある心寂しさを、私は知っている。


(だから、届かせる)


 一歩、進む。一歩、進む。

 祭くんがなにを考えていようとも、たとえ私の想いが拒絶されるのだとしても。

 届かせる。ただ、貫くだけ。

 この刀を届かせて、彼の心に踏み込んで見せる。


 いきます祭くん! 勝つのは、私だ!


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