第166話 重力加速
祭くんが新しい技を見せてくれる。
ここにきて、まさかジェットスキーなんて隠し玉を見せてくれるとは驚きだ。
思えばずっと、祭くんは地に足をつけてふつうに戦っていた。
手加減しているつもりはないんだろうけど、力を持て余していたのだろうと思う。
レベル9……最高位の魔法能力者の中でも、さらに最強な祭くんらしい話だ。
その彼が、今は追われる獲物として、私の前に立ってくれている。
追う者、追われる者、今の私は頂点資格者に挑む者であり、同時に狩人でもある。
最速の踏み込みで距離を詰めても、ジェットスキーで猛烈に逃げる祭くんには追い付けない。今の私の最速は祭くんの速度に匹敵しているが、同じ速度では追い付けない。
私には祭くんのジェットスキーを超える速度が必要だった。
身体強化による踏み込みで追い付けないなら、やはりここは重力操作だ。
進行方向に向けて重力の“場”を作りだし、吸い込まれるように加速する。
半ば全自動で加速してゆく私に対して、祭くんの速度は有限の速度だ。
空気抵抗に邪魔をされ、祭くん自身の身体の強度にも限界が左右される。
むちゃくちゃな軌道で動けば、Gがかかって身体が持たないはずだ。
しかし私の側にそのハンデはない。
重力操作で私の身体が持つ限りは加速できるし、私の身体は身体強化の魔法で常人をはるかに上回る強度を得ている。
だから、勝つのは私だ。
私は真っ向から祭くんの胸元めがけて飛び込んでいく。
狙うは心臓。刀の切っ先で、祭くんを突き殺す!
(いける!)
私はほんの少しだけ、勝利を確信して気をゆるめてしまった。
そのときに、祭くんがにやりと笑った。
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