第165話 ジェットスキーだ!

 美琴が地を蹴って駆けだした。

 水中にいるというのに、その動きによどみはない。

 おそらくは重力操作の魔法で、水中のデメリットを克服したのだろう。

 くうぅ、予想はしていたが、こうも簡単に僕の技を超えてくるとは……

 少しと言わずめちゃくちゃ悔しい。

 このくらいは超えて来いよとかかっこつけておいてアレだけど、僕にも水魔法使いとして、自分の技に対する自負はあるのだ。


「だが、呼吸困難のタイムリミットは、重力操作じゃどうにもならないだろう」


 このままふつうに美琴とチャンバラをしたら、僕に勝ち目はない。

 水圧で押しつぶす作戦も考えたが、おそらくそれは重力操作と身体強化の魔法で不成立だと思われる。

 水圧の刃をぶつけたところで同じだ。それは魔王ミコトにも通用しなかった。

 ならば僕の勝ち筋は、呼吸困難による窒息勝ち。

 美琴が自滅するまで、距離を取って時間を稼げばよいのだ。

 美琴の踏み込みは神速で、圧倒的の一言に尽きる。

 それから距離をとるのは至難の業だが……


「やってやれないことはないさ」


 僕は自分の足元に水量操作で圧縮された多量の水を集めた。

 そして自分の思考で“流れ”を形作り、サーフィンのようにそれに乗る!


 そうさ、ジェットスキーだ!


 身体強化された美琴の踏み込みは素早い。

 しかし魔法で足に下駄をはいた僕のジェットスキーも、負けてないぜ。


「さあ、鬼ごっこと行こうじゃないか!」


 斬撃を紙一重でかわして、僕は美琴をあおる。

 文字通り、双方にとって命がけの、鬼ごっこがはじまった。


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