第164話 このくらいは想定内です

 私は水の檻にとらわれて、愛の告白に失敗してしまった。

 まさか私はあなたが好きです! も言わせてもらえないとは……


 ふふっ、まあいい。照れ隠しだと思えば、可愛げがあるよね。


 とはいえ、想定内ではある。

 水の檻にとらえて、呼吸困難にする戦法は、全国大会でも祭くんの必勝パターンだ。

 むしろ、本気を出してもらえてうれしく思う。

 ここで手を抜かれていたら、私は彼に幻滅するところだった。


(お姉ちゃん、私、やるよ)


 私は重力操作の魔法を使って、水中の浮力を相殺して、地に足をつけた。

 これで問題なく、地を蹴って走ることができる。


 同じように重力操作の魔法で自分の動作をサポートして、水中のデメリットをなくす。

 これで、問題なく、刀を振って祭くんを斬り殺すことができる。


 問題は呼吸困難によるちっそくのタイムリミットだけど……

 これはまあ、仕方ない。


 息が続く間に、決着をつける他にないだろう。

 今の私にはそれができる。今の私は最高に充実している。


 お見せしますよ、祭くん。

 これが私、天川美琴の真骨頂。


 刀を握って、刀をふるって、その切っ先を愛するあなたに届かせる。

 そのためだけに、私は今日、自分のすべてを使い切る。

 私は今日、まごうことなき、最強の私を、あなたにお見せします。


 私はあなたに、私のことを信じてほしい。

 私が信じるあなたのために、天川美琴――いざ、参ります。


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