第163話 このくらいは超えて来いよ

「ああ、そうそう! 祭くん、戦いの前にひとつだけ言っておくことがありました」


「え? なに? なんだって?」


「こほん、ふしょう、私はですね! 祭くんのことが――」


 なんか先日も似たようなセリフをガブリエルから聞いたなあ……

 と思いつつ、僕は先手必勝で魔法能力を使った。


 具体的には四角い立体の水の檻で、美琴を閉じ込めた。

 ごぼごぼと、しゃべっている途中で発言を封じられた美琴が驚いている。


 水の檻、すなわち、呼吸困難にしてやろうという魂胆だ。

 ははは、しゃべって息を吐きだしている途中なら、効果てきめんだろう。


「悪いな美琴、今日の僕は本気だからさ。なんでもやるぜ」


 だが、このくらいは超えて来いよ?

 スタジアムの大ブーイングを一身に受けて、僕はにんまりと笑った。


 どうする美琴? 

 水の檻にとらわれた状態では、足元がおぼつかない。

 刀を振るにも水が枷になって、強くは振れない。

 おまけに、呼吸困難でちっそくのタイムリミットが迫る。


 だというのに――


「――――」


 美琴は不敵に笑って、水の中で刀を構えた。

 そうだ、そうこなくっちゃおもしろくない。

 僕が信じた天川美琴は、僕の人間不信を変えてくれた、ただひとりの女の子だ。

 おまえの輝きを、もう一度、僕に見せてくれよ。

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