第162話 敗者たちの

「祭は、私になにを見せたいというのでしょうか……」


 ガブリエルは立見席で、ひとりスタジアムの熱狂を見下ろしてた。

 晴天の喧騒とはうらはらに、彼女の心は曇り空だ。

 僕に愛の告白を断られて、気落ちして、気を滅入らせているようだ。


「私には信じられるものなんて、なにもないのに」


「それはどうかな。あんがいと、自分のことは誰もわからないものだぜ」


 ひょいと、どこからともなく、風谷オサムがあらわれた。

 風のように神出鬼没な少年は、立見席でガブリエルの隣に立って笑う。

 独り言を盗み聞きされたガブリエルは不愉快そうだ。


「あなたに私のなにがわかるというのですか?」


「わからないさ。だが、祭の考えることは少しわかる」


 オサムは近くも遠い鏡を見るように、朗らかに微笑む。


「ああいうタイプはいつまでも迷い続けるが……迷いを振り切った時が、強いぜ」


「世の中には振り切れない迷いだって、あるかもしれませんよ?」


「その答えを、あいつはきっと、これから見せてくれるさ」


 答え――ガブリエルがうつむいた顔を上げて、スタジアムの中心を見た。


(もし、私が、この手で私の心を変えられるなら)


 ほんの少しの期待と、不安で胸を満たして、ガブリエルが笑った。


「見せてください。祭、あなたが見つけた真実の答えを」


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