第160話 涙

 ガブリエルのほほに、一筋の涙が流れた。

 僕は美琴が好きだといった。

 それはそのまま、僕からガブリエルに対する拒絶の言葉に他ならない。


「そう、ですか」


 心にぽっかり空洞があいたような、そんな気持ちを、僕たちは共有する。

 おそらく、僕とガブリエルは似た者同士なんだろう。

 ひょっとしたら、お互いを理解して良きパートナーになれたのかもしれない。

 だとしても、それは自分の苦しみを解決する行いではない。

 自分の苦しみを……他人に背負わせる卑怯な逃避だ。

 僕はそんなのは嫌だったし、ガブリエルにそんな思いをしてほしくなかった。

 よけいなお世話だとわかっていながら、僕はガブリエルに言う。


「僕の心は僕のものだ。あなたの心はあなたのものだ。その理解を他人に任せちゃいけないよ」


「詭弁です……あなた以外には、誰も私のことなんてわかってくれないのに」


「そうだなあ、僕もそう思って、ずっと、生きてきたよ」


「でしょう? なら、私たちは分かり合えるはずです。ねえ、祭……」


 女の子の涙ってのは武器だよなあ。

 同情して、思わずうなずいてしまいそうな迫力がある。

 だけども、共依存に付き合ってやれるほど、僕は強い人間じゃないからさ。


「ガブリエル。あなたが迷うなら、僕が選んだ答えを見届けてほしい」


 ガブリエルの目をまっすぐに見て、僕は答えた。

 彼女の想いをウソにしないためにも、僕は心からの気持ちを伝える。


「決勝戦、見てくれよ。僕はあなたにも元気を出してほしいんだ」

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