第153話 身の上話

 僕は自分の話をした。

 もちろん、前世の記憶があるとか無いとかは話さない。


 ただ、自分の家族からかけられた言葉や、それに由来する僕自身のコンプレックスをお兄さんに打ち明けたわけだ。


 具体的には「おまえを理解してくれる人なんてこの世にはいない」というワードかな。

 僕自身、それを是とはしないまでも、納得してしまう程度には受け入れてもいる。


 ほんと、幼いころに投げつけられた言葉、特に家族のように近い間柄から投げつけられた心無い言葉というのは、どうやっても心に根を張るものだな。

 僕も、これを克服しようと色々と考えを巡らせたのだけど、どうにも上手くいかない。

 

 というのが、実際に僕を認めて理解してくれる人間に出会ったことがないからだ。

 僕自身が人間不信で心を開いていないから、他人も僕を認めてくれないのではないか? と、思うことは大いにある。

 しかし、人間不信もまた、僕自身のパーソナリティだ。

 それを無理に改善したとして、それは本当に僕自身を理解してもらうことにつながるのだろうか? という気持ちが、僕の葛藤であり、ジレンマだ。


 そもそも人間不信を簡単に改善できるなら、とっくの昔にやっているわけだしさ。

 半ば諦め半分で、僕は他人に僕の人間不信を理解してもらいたいと願っている。


 じゃあ、僕は自分の人間不信を理解しているのか? という話でね……


「どうだろうなあ、と思うわけですよ。めんどくさくてすみませんね」


「そうだな、キミは年齢以上に心に苦しい気持ちをかかえているようだ」


 お兄さんも困ったように苦く笑ってくれた。

 そのうえで、彼は言うのだ。


「キミが本当に自分自身の理解を望むなら、その道はひとつしかないだろうな」

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