第150話 だけど僕は

「そこまで、勝者、天川美琴!」


 準決勝の舞台で、勝者はひとり。

 美琴は僕が待つ決勝戦へと駒を進めた。

 大歓声に勝利をたたえられる美琴は、少しだけ気恥ずかしそうだ。


 美琴を観察している僕に、オサムが笑いかけてくれる。


「へえ、これでおまえの対戦相手は美琴ちゃんになったわけだな」


「そうだな。最善を尽くすよ。美琴が相手なら、僕も楽しくやれそうだ」


「かーっ、色男はうらやましいねえ。俺みたいな邪魔者は退散するさ!」


 馬にけられて地獄に落ちろとは言わないし、別に邪魔者ではないんだけどな……

 オサムは僕と美琴の関係を少し誤解しているようだ。

 僕が苦く笑っていると、しかし、オサムは真剣な表情になって言う。


「だけどな、祭」


「ん?」


「あの子の想いを、ウソにするか、ホントにするかはおまえ次第だぜ」


「…………」


「じゃあな、決勝戦、がんばれよ!」


 そう言って、オサムは群衆の中へと消えていった。

 美琴はいつだって全力だ。その本気に応えるためには、僕も全力を尽くす必要がある。

 がんばれ、か……がんばるさ。だけどね、僕は……


「やっぱり、そこまで、他人を信じられないかも、しれないな」

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