第146話 天使降臨

 それは異様な光景だった。

 きらびやかな光をたずさえて、ガブリエルが再び天空に浮遊する。

 しかしその存在は、目に見えているのに、ぼんやりとしか知覚できず。

 さらには彼女の声が四方から聞こえるように錯覚させられる。


「おわかりですか? これが高次元の存在、天使の力です」


「この世界とは別の宇宙の法則ですか」


「ええ、我々が絵にかいた餅を破り捨てられるように、今の私はほんの気まぐれであなたを打ち倒すことができる。どんな魔剣も大魔法も、私には通用しない」


 なるほど、道理だ。

 魔法能力というのは、あくまで、この世界の……この宇宙に生きる者の法則だ。

 この世界でない高次元の存在には、低次元の法則は適用されないということだ。


 自由帳に「最強! 水魔法!」とラクガキをしたところで、現実を生きる誰彼になんの影響も与えることができないように、今のガブリエルは文字通りの高次元に立っている。


 これは……レベル9どころか、神にも等しい魔法能力だ。

 魔法能力という枠組みで評価してよいのかさえ、わからない。

 ガブリエルの言う通り、美琴の勝ち目はまったくないだろう。


 というか僕がやっても勝てない。水魔法でどうにかなる範疇の相手ではない。

 彼女が決勝戦に進んできた場合、僕にできるのは降参だけだ。

 情けないね、自分ながら情けないと思うよ。

 だけど、それでも、僕は美琴を信じていたい。

 彼女なら、僕に諦めとは違う選択肢を見せてくれるのではないのかと、期待する。


 美琴は静かに、天空に立つ頂点資格者を見つめていた。

 そして、彼女は言う。


「一意、専心」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る