第142話 よくぞ逃げずに

「よくぞ逃げずに私の前に立ちましたね、天川美琴」


 試合開始の前にガブリエルが美琴を挑発して言う。


「先ほどの大言は驚きました。まさかあなたに、決勝戦に進むつもりがあるとはね」


「…………」


「言葉もない……いいえ、集中を乱されたくないといったところですか。それがあなたの流儀ならば、味気なくともいいでしょう。私はそれを認めます」


 精神集中して沈黙を貫く美琴に対して、ガブリエルは饒舌に語る。

 戦う前から勝っているような気分で語る彼女を、美琴はじっと見つめ返す。


「ひとつ、誤解があります」


「はい?」


「ガブリエルさん、あなたは私を下に見ているようですが、剣の腕前と精神の強さはともかく、ひとつだけ、私はあなたに勝っているものがありますよ」


 ガブリエルの眉間がぴくりと動いた。いらだっているようだ。


「へえ、それはなに?」


「それは、言わずもがな。祭くんと過ごした時間の長さ。そして、であるからには……」


 よく聞こえないが、なにやら言い合っているようだ。

 あいつら、試合前になにを長々と話しているんだ?


「もちろん、この未熟ゆえに想う、祭くんへの恋心です」


 そして美琴は、虚空の鞘から、ひとふりの刀を抜き放った!


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