第137話 観客席の一幕

「祭くん、本気ですね……」


 美琴は観客席で僕とオサムの戦いを観戦していた。

 その表情は戦場に立つときと変わらずに厳しい。


 見入る、という表現が適切だろうか。

 美琴は僕とオサムの激戦に見入って、集中していた。


「私が、あの場にいたら……」


 美琴の表情が一層凛々しくなる。

 あの場にいたら、即死間違いなしの攻防を見て、なお美琴は心折れない。

 身体強化の魔法で対応できるレベルをはるかに超えた“嵐”の現場を想う。


「私なら、どうやって祭くんを倒すでしょうか」


 倒せるのか? と後ろ向きには考えない。

 倒す前提で、美琴は思考をめぐらせる。


 戦士として、剣士として、美琴の心は洗練されている。

 メンタルの弱さは彼女の弱点ではあるが、それは彼女の一面にすぎない。

 本来の美琴はサムライガールの呼び名にふさわしい徹底した戦士なのだ。

 そんな美琴の集中を乱すのは、同じく観客席の隣人だ。


「おや、あなたごときが、祭に勝てると思っているのですか? 増長ですね」


 金髪美女のガブリエル氏が、美琴の隣席に腰を下ろした。

 美琴は何も答えなかったが、少しだけ、いやそうな顔をする。

 異国の地で無礼千万なふるまいをするガブリエルは、あまり好印象と言えないようだ。


 美琴の沈黙を鼻で笑って、ガブリエルは言う。


「私なら、祭を満足させてあげられますよ」


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