第127話 勝つのは……

 美琴のまなじりがキリリと吊り上がった。


 僕は美琴が怒ったところを見たことがない。

 ふくれ顔は見たことがあるけれど、本気の怒りは見たことがない。


 静かに、決してゆずることをしない言い方で、美琴はガブリエルに言う。


「訂正してください」


「おや、あなたは自分が祭にふさわしいと思うのですか?」


「そうではなく、ふさわしいとか、ふさわしくないとか、そんな言葉で祭くんを所有物のようにあつかったことを謝ってください。失礼ですよ、ガブリエルさん」


 僕は別にそんなことで怒らないし、気にもしないけれど……

 美琴の考えは違うようで、彼女はじっとガブリエルをにらんでいる。


 ガブリエルは感慨もなさそうに、フッと息をついた。

 彼女が反省していないのは明白で、主張を変えるつもりもなさそうだ。


「失礼、失礼ね。まさか未熟者に礼儀を教わるとは、確かに、この私もまだまだ未熟だったのかもしれません」


「謝る気はないんですね?」


「ええ、私は自分の正しさを、他人の言葉で改めるつもりはありません」


 高慢な態度で、ガブリエルは美琴を見下す。

 静かな朝の公園で、視線の火花が散る。

 美琴はそれ以上、何も言い返さなかった。

 沈黙を肯定と受け取って、ガブリエルは微笑み、去っていく。


「祭のお友達、お望みなら準決勝で叩き潰して差し上げましょう。勝つのは私です」

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