第108話 満天の夜

 夜、大漁の魚を釣り帰った有栖川顧問をよそにおいて――


「宿の門限まで、少し歩きませんか?」


 そんな風に美琴に誘われて、僕は海岸線を歩いていた。

 ギンガ先輩も誘ったのだけど、彼は「遠慮しとくよ」と苦くわらっていた。

 特になんの話題もない

 歩いてみても、僕には夜風が涼しいなーくらいの感想しかない。

 しかし美琴は違うようで、満天の星空を見あげて、言う。


「星が綺麗ですね! 気分爽快です!」


「悩みが晴れた、って顔だな」


「ええ、ながらく、ご心配をおかけしました」


 どんより気落ちしていた自覚はあるのだろう。

 美琴は照れ照れと申し訳なさそうに、頬をかいた。


「祭くんは言ってくれましたよね」


「んん? なにを?」


「私を……私の言葉を、まだ信じているって」


「え? 言ったっけ?」


「ええっ!? 酷い!?」


「ははは、冗談だよ」


 僕は不謹慎に笑った。僕にはこのくらいのテンションがちょうどいいぜ。

 ふくれる美琴をからかって、僕はフッと、息をつく。


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