第107話 ありがとうございました!

「ひとつ、迷いの霧が晴れたような気がします」


 美琴が微笑み、お兄さんに一礼した。


「ありがとうございました。いきなり変な話をして、すみませんでした」


「構わないよ。心のお悩みは、思春期に誰もが経験するものだ」


「? そうなんですか? なにはともあれ、ありがとうございました!」


 美琴は再三頭を下げて、ゴミ拾いを再開した。

 その表情は人が変わったみたいに晴れやかで、手際よくてきぱきしている。


 年の功ってやつかねえ。

 僕がお悩み相談に乗っても、同じ言葉は言えないし、同じように美琴を励ましてやることはできなかっただろうな。

 安心する一方で、美琴の助けになれなかった自分を、すこしだけ悔しくも思う。

 そんな僕の胸の内を見透かすみたいに、お兄さんが微笑む。


「キミも負けるなよ」


「へ? ああ、はい、全国大会はがんばりますよ! 応援してください!」


「それもだが……まあいいさ。口うるさい先達は嫌われるからな」


 それきり、お兄さんは口をつぐんで、ゴミ拾いに没頭してしまった。


 一か所にまとまっていては、いつまでたってもゴミが拾えない。

 僕とギンガ先輩も、散らばり、無言でゴミ拾いに挑む。


 気づけば、太陽が西の空に傾いて……


 僕たちはお兄さんにお礼を言って、今夜の宿に引き上げた。


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