第106話 自分の声
「声、か」
お兄さんは空をあおいで、それから少し考えた後に、視線を下げて美琴を見た。
彼はフッと息をついて、困ったように微笑む。
「難しい問題だな。人の心の課題は、他人が解決するには荷が勝ちすぎる」
「ご、ごめんなさい。変なことを聞いて……」
「いいよ。構わない。俺の勝手な考えでよければ、話をしよう」
ボランティアのお兄さんが手を休めて、口を開く。
「俺が思うに、キミが想うキミのお姉さんの声は、キミ自身の声だ」
「私自身の、声?」
「いなくなってしまった者の声は、自分が想像する他に方法がない。だから、それは誰の声でもなく、自分自身の声だ」
なるほど、情やオカルトを交えない正しい物の見方だ。
すこし理屈っぽいが、僕も大いに共感する。
お兄さんは続ける。
「美琴さん、キミのお姉さんが、どういった人なのか、俺は知らない。だが、その想いと声が、キミ自身の声であるならば、俺がキミに伝えられる言葉はひとつだけだ」
「…………」
「未熟な自分に圧し潰されるな。キミの声はきっと、キミを導く役目を果たす。だから、いなくなった誰かの“声”を活かすのも無意味にするのも、あとのことはすべて自分次第だ」
それがどんな決断であれ俺はキミを応援するよ、とお兄さんは美琴に笑ってくれた。
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