第105話 想い

 それにしても、他県に遊びに来てまでゴミ拾いとは……

 殊勝なお兄さんに感動して、僕は「すごいですね」と言う。

 ボランティアのお兄さんは「そうでもない」と謙遜した。


「大した理由はないよ。俺は考え事をするのが、好きなんだ」


「考え事?」


「ああ、こうして無心に手を動かして、ひとりで考えにふけっていると、昔のことを思い出す。今はそばにいない友人のことを思い出して、懐かしい気持ちになれるのさ」


「わあっ、なんだか素敵ですね! そのお友達は、いま、どちらに?」


「さあな……キミにも、家族や友達はいるだろう? 大切にするといい。その人たちは、必ず、キミの心を支えてくれる」


 笑顔のお兄さんとは反対に美琴は少しだけ、うつむいてしまう。

 美琴にとっての心の支え……真央のことを思いだしているのかな。

 そんな僕の想像は当たっていたようで、美琴はこんなふうにたずねる。


「あの、お兄さんは大切な人の想いに、応えたいと思ったことはありますか?」


「ん? 急な質問だな。どうしたんだ?」


「変な話をしてすみません。私にはあります。いなくなってしまったお姉ちゃんの話です」


 お兄さんの表情が少しだけ真剣になった。

 作業の手を止めて、笑顔を引っ込めて、お兄さんは美琴の話を聞いてくれる。


「私は、お姉ちゃんの声と想いに……いいえ、自分自身の気持ちに決着をつけたいんです。でも、その方法がよくわからないんです……」


 どうすればよいのか? 美琴の迷いを受け取って、お兄さんは考え、空をあおいだ。


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