第104話 昔の話だ

「なるほど、キミたちは魔法能力者の合宿にやってきたのか」


「肝心の顧問は、海釣りにくびったけですけどね」


「ゆかいなことだな……しかし、祭くんと美琴さん。ふたりで全国大会に出場するとは、すばらしい巡り合わせだ。当日は俺も応援するよ。がんばってくれ」


 お褒めと励ましの言葉を受け取って、僕は粛々と頭を下げた。

 美琴は「なら、ぜひ、私と手合わせを!」と懲りずに提案した。そのネタはもういい。

 お兄さんは、美琴の無礼を優しく笑ってくれる。


「手合わせか。なつかしいな。学生の頃を思い出すよ」


「というと、お兄さんも魔法能力者で?」


「昔の話だ。俺も友達も、誰しも実生活では役に立たない能力を持っているよ」


「ははは、役に立たないってのは、同感ですね……」


 医療魔法とか、役に立つのは一握りで、ほとんどは社会に出た時に使わなくなる魔法ばかりだからなあ……

 ゴミ拾いをしながら、僕らはお兄さんと雑談をした。

 その中でわかったのは、お兄さんがなんと、うちの学園のOBだということだ。

 ええ? 地元の人じゃん。世間が狭いとはこのことだ。


「今日は家内が海に行きたいと言ってね、まあ、肝心の家内は、自分の友人とゲーセンに遊びに行ったんだが……」


「ソレ、海でなくてもよいのでは?」


「俺もそう思う。女性の考えることは、歳を重ねてもよくわからないよ」


 美琴が「学びになります」とうなずいていた。何を学んでいるのかは、大いなる謎だ。

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