第99話 あの日の言葉

 僕は僕が美琴に初めて会った日の言葉を、口にした。


「『私には夢があります。誰よりも強い魔法剣士になる夢です』」


 僕には夢なんてない、やりたいことなんてなにもなかった。

 信じられるものはなにもなく。

 信じたそばから裏切られるばかりの、バカバカしい人生だった。

 なのに、あの日の女の子は僕をまっすぐに見つめて、言ってくれた。


「『私はこの夢を、あなたにも信じてほしい』」


「それは……」


「信じてるよ。僕はまだ、おまえの言葉を信じてる」


 くだらない幻想だ。くだらない期待の押しつけだ。

 そうだと知って、僕は自分の想いを、決して言い訳せずに伝える。


「信じさせてくれ。天川美琴は、世界最強の魔法剣士なんだろ?」


「私は……」


「それでも美琴が迷うなら」


 僕は部屋の扉を開けた。

 鍵のかかっていない扉は、簡単に開けられた。


「美琴が覚悟を決めるまで、それまでは、この僕が世界最強の魔法剣士だ」


 泣きはらした美琴の手を取って、僕は閉じた部屋から彼女を連れだした。

 こんな陰気は美琴には似合わない。そうだろう?


「倒しに来いよ。僕はいつまでも、挑戦者を待ってるぜ」


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