第97話 幻想
美琴はなにも言い返さなかった。
ただ静かにうなだれて、自分の心を整理しているみたいだった。
うーむ、闇が深い。
底抜けに明るくて天然みたいな性格をしている美琴の、底抜けの闇を知ってしまった気分だぜ。
僕はそのまま、天川家の食卓で夕飯をいただく流れになった。
なのだが、食事時になっても、美琴は自分の部屋から出てこなかった。
お父さんが怒っても、お母さんが名前を呼んでも、美琴は自分の部屋から出てこない。
「おとうさん、美琴をもう一度呼んでやってくれないかい」
「放っておけ! 心の課題は自分で克服させればいい。美琴は天川の剣を継ぐ者だ!」
頑固おやじ極まれり。困ってしまったお母さんが、僕に助けを求める。
「祭くん、あの子を呼んできてやってくれないかい」
「いや、それは……」
「無理は承知だよ。だけど、キミにしか頼めないんだよ」
僕でいいのかなと思う気持ちもあったけれど……
それがご家族の問題だと知りつつ、僕はうなずいていた。
美琴が心配だったし、今の気落ちした美琴を支えてやれないようなら、友達だなんて口が裂けても名乗れないと思ったからだ。
やれやれ、僕の人間不信もずいぶんと丸くなったもんだな……
それが良い変化だと思える辺り、僕も多少は成長したんだろう。
2階に上がり、美琴の部屋の前に立って、僕は呼びかける。
「なあ美琴、少し話をしないか」
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