第95話 一人っ子

「この大バカ娘! 自分の妄想の産物に意識を乗っ取られるやつがあるか! 心を鍛えろ! つけこまれる隙をつくるんじゃねえ!」


「違う! 妄想じゃない! お姉ちゃんなんです!」


「お姉ちゃんって、おまえなあ……」


 僕たちが帰宅すると、父と娘が大舌戦を繰り広げていた。

 およその流れを察するに、魔王の意識を『姉』として認めるか、否か、そんなところで話題が平行線になっているようだ。


「お父さんのわからずや! 祭くんからも言ってやってください! あれはお姉ちゃんの声なんですよ! 間違いありません! そうですよね!?」


「僕に話題を振るなよ……僕は知らねえよお……」


 ガミガミ、やいやいと言い合う父と娘に巻き込まれて、僕は辟易へきえきした。

 そのとき場に沈黙をもたらしたのは、意外にも美琴のお母さんだった。


「美琴」


 冷たい一言。

 その声で、美琴もお父さんもピタリと口をつぐむ。


「あんた、その“声”に意識を乗っ取られて、祭くんに助けてもらったんだろう?」


「それは、そうですけど……」


「美琴、もういいだろう。今日こそは、私の話を聞いておくれ」


 お母さんは美琴の前に座って、粛々と言う。


「あんたはね、最初からずっと、一人っ子なんだよ」

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