第94話 育ての親

 犬の散歩コースを巡りながら、僕は美琴のお母さんと世間話をした。


 学校で美琴がうまくやっているか、とか。

 剣術バカの美琴が浮いていないか、とか。


 おおよそ、僕の想像通りの心配をご両親はしているみたいだ。

 とりあえず、美琴が楽しく学園生活を送れているとわかって、美琴のお母さんは笑顔になってくれる。


「茶道部との対決で、『まずい、もう一杯!』はひどすぎると思いましたよ……」


「お父さんが青汁を飲ませていたからね。お父さんゆずりのセリフ回しさ」


「それは年頃の娘さんには厳しい話ですね」


「ははは、育て親が言うのもなんだけど、美琴は変わった娘だからね……」


 お母さんが苦く笑う。

 僕は歩きながら、先ほどから気になっていた疑問をたずねる。


「育て親って? 美琴はあなたたちの娘じゃないんですか?」


「少し事情があるのさ……私らの親戚筋に、ロクでもないのがいてねえ。借金抱えて夜逃げして、幼い子どもだけを残していなくなっちまった大バカどもが、さ」


「…………」


「気になるのはわかるけど、あまり詮索しないでやってくれないかい。あの子は良い子だよ。育て親の私らが保証するよ」


 お母さんがさびしそうに笑った。

 確かに誰しも人には事情がある。それ以上のことは詮索しないのがよさそうだ。

 僕は茜色の空を眺めて、そう思った。


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