第89話 魂の輝きを

 ここに至って、水魔法も重力魔法も意味をなさない。


 僕たちはただ持てる力の限りを尽くして切り結ぶ。

 僕は自分の主張を押し通すために。

 魔王は彼女の中で眠る美琴の意識を守るために。


 僕の願いなんて、ただの自分勝手なおしつけなんだろうさ。

 美琴に……他人に期待して、無理を押し付けているだけなんだろうさ。


 だとしても、僕はもう一度、美琴の魂の輝きを見たいと願った。

 もともと鍛えていない僕に、剣術の心得なんてものはない。

 水魔法に由来するトリッキーな技をつかえなければ、僕なんて常人以下の人間だ。


 でもさ、負けたくないんだ。負けたくないって、思うんだよ。

 自分のために、美琴のために、魔王なんかに負けたくないって思うんだよ。


「どうした魔王、動きが悪いじゃないか」


「くっ……」


 僕が水圧の剣を打ち下ろすと、魔王は苦悶の表情を浮かべてそれを受けた。

 わかるよ。おまえは美琴じゃない。

 美琴じゃないから、剣術なんてからっきしなんだろう。

 だから僕みたいなド素人相手でもチャンバラが成立するんだ。


「……強き者よ、傲慢な者よ。おまえはその強さで、美琴に何を求める?」


 魔王の問いに対する僕の答えは決まっていた。


「僕の友達が持つ本当の強さと……美琴の魂の輝きを」


 魔王が微笑んでくれた。

 ――折れない刀が砕け散った時、前のめりに倒れる美琴を僕はしっかりと抱きとめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る