第88話 友達だからだ

 僕が剣を手に駆け出し、魔王に斬りつける。

 魔王も、ひとふりの刀を呼び出した。

 魔王ではない美琴の魔法能力……折れない刀だ。


 魔王は楽しそうに言う。


「ああ、ゆかい、ゆかいだ。私は今、おまえと最高の勝負をしている!」


「そうかよ」


 だけど僕はこれっぽっちも楽しくない。

 一度、二度と切り結ぶ中で、僕は魔王をにらんで言う。


「どけ、魔王。僕が戦いたいのは、おまえじゃない」


「ゆかい。私では役者が足りないとでも? なら誰がいる? 誰が値すると?」


 誰も信じない僕に、望みなんてない。望みなんてなかった。

 誰も信じない僕に、値する結果なんてない。結果なんて欲しくもなかった。

 だとしても今、僕には返すべき言葉がある。


「友達だからだ」


 友達だから、望む。

 友達だから、値する。

 なあ美琴、聞こえているだろう。

 魔王にすべてを任せて、投げ出して、おまえは本当に満足か?


「聞け、美琴!」


 おまえだから、友達だから! 理想を望み、僕が信じるに値するんだ!


「どけ、魔王! 僕が戦いたいのは、たったひとり、“自分”が信じる友達だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る