第87話 好都合!

 観客席から大歓声にもにた悲鳴が沸き上がった。

 大災害に自分がまきこまれるとなれば、誰にも逃げたくなるさ。

 だけども、僕だって大虐殺がやりたいわけじゃない。当たり前だ。


 このときの僕には打算があった。

 言ってしまえば、僕は水の塊の落下を防いでもらおうと思っていたのさ。

 僕が全力を投じた水量操作に、匹敵するものがあるとすれば……


「……小細工と呼ぶには、力技がすぎる。ここは称えよう、強き者よ!」


 やはり重力操作の魔法!

 町全体を水没させるほどの水量が、ピタリと空中で制止する。

 わかっているさ、わかっていたよ。


 おまえなら、それができるってな。

 すべては僕の期待通りの展開だ。


 そのとき、勝負を見守る有栖川顧問が声を張り上げる。


「やめなさい祭くん! あんな水の塊を落としたら、この町は全滅よ!?」


「知ったことか! 市民どもの安全に気をとられて、魔王の動きが鈍れば好都合だ!」


「は、はあ!? なにを言ってるのあなた!?」」


 言葉通りの意味なんだよなあ。

 僕は水量操作で、すべての魔法能力を使い切っている。

 同じく魔王も、おそらくはすべての魔法能力を駆使して、これを防いでいる。

 だから――


「お互い、もう、魔法に頼ってできることはないだろ?」


 僕は最後の最後、魔法能力を振り絞って、水圧の剣を作り出した。

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