第86話 海の魔法

「水が来て、雨とくれば、僕の本気は……想像がつくかい?」


「さて……おまえの名前の通りかな?」


 僕の名前は海野祭うみのまつり

 海、そうとも“海”だ。


 僕の真の本気は平原に大海原を作り出す、極大の“水量操作”にこそある。

 言ってしまえば、僕が本気になれば町のひとつやふたつ、水底に沈められるのさ。


 もっとも被害も後始末も大変だから、ふつうそんなことはしないんだけどね。

 だとしても……


「行くぞ魔王、これが僕の全力だ」


 今日の僕は、美琴のために、本気になると決めたんだ。


「水よ、雨よ、海よ、僕の声に応えてくれ――」


 その時、スタジアムの観客席から悲鳴が上がった。

 人々の視線は、眼下の戦場ではなく、頭上に向けられている。


 スタジアム上空にダムをいくつもひっくり返したような、水の塊があらわれたからだ。

 くっくっく、こいつをこの場に叩き落とせば、どうなると思う?

 町も人も全滅じゃい! 重力魔法だろうがなんだろうが、一撃必殺だぜ!


「見たか魔王、この海野祭の真の力を!」


「……開いた口がふさがらないとは、このことだが。アホかおまえは?」


「そのアホを成立させてくれると、僕は期待しているのさ」


 おまえ、魔王だろ? そんな期待を込めて、僕は水の塊を叩き落とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る