第54話 僕は戦いたくない

「強いキミよ。私と戦え、おまえにはその資格がある」


 魔王を名乗る者が立ち上がり、刀を手に取った。

 ギンガ先輩が慌てて、シンジ先輩もけげんそうな顔をする。

 僕は……座ったままで、美琴の両目を見返した。

 戦え、か。

 資格があろうとなかろうと、僕の回答は決まっている。


「嫌だ。僕は戦いたくない」


「なぜだ?」


「美琴が僕を友達だと言ってくれたからだ」


 ギンガ先輩とシンジ先輩がきょとんとしている。

 魔王を名乗る者も、今は静かに話を聞いている。


「僕には友達なんていない。だけど、そう言ってくれた美琴を裏切ることをしたくない。この先、僕が彼女と戦うとすれば、それはお互いが望んだふさわしい舞台でだけだ」


「…………」


「帰ってくれ、僕はあなたに、興味を持たない」


 迷いはない。そんなつまらない気持ちが、僕にあるはずがない。

 僕の回答を聞き届けて、魔王は刀の切っ先を下げた。


傲慢ごうまんなキミよ。今はおまえの強さにめんじてしりぞこう。だが忘れるな」


 両目を閉じて、言葉通りに、彼女は戦いの威圧感を引っ込めてくれた。

 魔王を名乗る者は今日初めて、軽蔑ではなく好意的に微笑む。


「おまえは“私たち”のものだ。美琴も、それを望んでいる」


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