第53話 魔王

 うつろな両目が、僕を見た。

 見透かされているのではないかとおそろしく思うほど、静かな対峙だ。

 しばらくの静寂を経て、美琴が言う。


「私は、魔王」


「は?」


「私は魔王だ。彼女が望み、私が望んだ魔法の王だ」


 魔王? 自称が魔王様とは、すごい幻聴があったもんだな……

 いや、これは幻聴というか……

 本来の美琴とは違う、独立した人格のように思われる。

 うーん、イマジナリーフレンドとか、二重人格とか、そんな感じなのかね?

 よくわからないけれど、とりあえず彼女のことは『魔王』と呼ぼう。


「魔王さん。あなたの言葉が、美琴を不安にさせている。話を聞いてもらえないかな?」


「…………」


「あなたが魔王を名乗る者だとして、美琴に伝えてほしい言葉があれば、僕が伝えよう。あなたが美琴と共にある者ならば、美琴を安心させる手助けをしてほしい」


 うつろな両目がわずかに細められ、口元がシニカルにフッと動いた。


「おまえだ」


「ん? なんだって?」


「“私たち”は、おまえが……おまえのつよさがほしい」


 美琴の口を借りて語る魔王は、僕を見つめた。

 ――そのとき、虚空を切り裂いて、ひとふりの刀があらわれた。

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