第39話 美琴の工夫

 美琴が包囲された状況には、既視感をおぼえる。

 入学式の後に僕と戦った時、僕が美琴を水の剣で全包囲した時と同じだ。


 美琴は強いが、それはやはり人間の範疇の強さだ。

 一対多数の状況では、個人にできることには限界がある。

 刀で人形を斬り捨てている間に、他の人形が美琴を串刺しにするだろう。

 残念だが、勝負あったかな……と僕は残念に思う。


 しかし美琴は僕の諦めとは反対に、両目の眼光を研ぎ澄ます。


「不屈こそ勝負師の資格。私は逃げも隠れもしません」


「ふふふ、かっこいいねえ、天川ちゃん」


 シオンが笑う。そして武装人形たちが一斉に美琴に襲い掛かった!

 万事休す。そう思われた瞬間に、しかし――


まつりくんに教えてもらいました。私の能力の、本当の使い方を」


 硬質な音とともに、人形が使う凶刃がへし折れた!

 美琴の“素肌”が、人形が使う包丁とナイフをはじき返し、へし折ったのだ!

 そこで僕は美琴の工夫に気づく。


「へえ、なるほど、自分の身体に、強化の魔法能力を使ったのか」


 折れない刀、折れない心、ついでに壊れない身体をつくったわけだ。

 え? なにそれ? アストロンかな? 強くない? どうやって倒せばいいの?

 決勝戦の心配をしている僕の焦りなんて知らずに、美琴は微笑む。


「心は鋼、この身もすでに鎧です。私の勝ちですよ」


 美琴は人形の包囲を強化された身体で強引に突破して刀をふるう。

 そして次の瞬間、鮮血と共に、紫雲院シオンの首をはね飛ばした。


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