第33話 戦わずして勝つ

 学園長の挨拶が終わった。

 選抜大会の参加者はAからDまでの組に分かれて、広いグラウンドで試合を行う。

 僕はAブロック、美琴はDブロックで、真逆の組分けだ。

 AブロックとBブロックが当たるのが準決勝。

 でもって、Aブロックの勝者とDブロックの勝者が当たるのが、決勝戦だ。


 僕の一回戦の相手はなんだか大人しそうな雰囲気の女の子だった。


「れ、レベル9と戦えるなんて光栄です。よろしくお願いします!」


「ええ、こちらこそ。どうぞよろしく」


 なんだか、おどおどしているみたいだ。

 魔法能力のレベルは知らないけど、緊張するよな。気持ちはわかるよ。

 だから試合が始まった直後に、僕はこういう提案をした。


「そんな緊張せずに、すこし待ってあげるから深呼吸しなよ」


「は、はい、ありがとうございます」


「吸ってー、吐いてー」


「すぅー、はぁー」


 吐いたな? 空気を吐き出したな?

 僕はその瞬間を狙って、彼女ののどと鼻を水の膜で塞いだ。

 呼吸ができないようにな。


「!?!?!?!?!?」


「先生! こちらさん、体調がすぐれないみたいです! 喘息ぜんそくですかね?」


 はい、不戦勝。勝負は、戦わずして勝つのがいちばんだ。あっはっは。

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