第29話 水中の世界

 緊迫した雰囲気の中、エースヒロモトが最初で最後の1球を投じる。


「いくぜ、後輩、こいつが俺の真のウィニングショット――」


 球種を宣言するのは、わかっていても打てないと自信があるからだろうな。


「【無回転稲妻剛球ライトニングナックルショット】!!!!」


 ここでヒロモト先輩の目と耳と鼻に水を突っ込めば勝てるんだけどな。

 さすがにそれは真剣勝負の精神に反するさ。

 これから僕がやろうとしていることも、大概、インチキだけどね……

 勝負は一瞬、針の穴を通す気持ちで、僕は自分の魔法能力を集中させた。


「水の世界を見せてやる」


 ボールを海に投げ入れたら? どうなる?

 ボールをプールに投げ入れたら? どうなる?

 おもいっきり減速するさ。水の中では力押しのスピードは出ない。

 だから僕はボールの進路に、強い水圧の水槽すいそうをつくった。

 ホームベースに届くまでにちょうどよく減速するように、な!


「な、なにい!?」


 こうなれば、無回転ボールなんて、ただのスローボールだ。

 ちょうど打ちごろになったボールが、水槽から出てくる。

 変化もしていない。スローボールがド真ん中。

 これを打ち損じるのは、いくら素人でも難しいさ。


「ということで――」


 金属音! 綺麗な放物線アーチを描いて、ボールが真正面上空に飛んだ。

 センターフライってところかな? 卑怯ですみませんね、ヒロモト先輩。


「これで、僕たちの勝ちだ」

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