第15話 ホワイトアクセスマジック 15

「まさか、そんな」

 否定的な反応をしてみたものの、ないと断定することはできない。

「加えて、下手をしたら松井さんだって危険だ。電話をしていた犯人が、噂の元を突き止めようとするかもしれないんだぞ」

 あたしはしゅんとなっていた。心の中で、悪くない考えだわと一瞬、自画自賛したのが恥ずかしい。思い付きは思い付きに過ぎなかったみたい。

「結局、魔法しかないわ」

「それなんだけど、どうやって食い止めるのさ? 移動と治療と攻撃、それに雪を降らせるだけなのに」

「これから考える。江山君、言ったじゃない。まだ時間はあるって」

 あたしの即答が、江山君には意外だったみたい。口を半開きにしたまま、しばらく絶句して、それから唇をかみしめた。

「……分かった。話はあとにして、とりあえず、テニスコートに行こう。みんなが心配してる」


 テニスの出来は散々だった。遅れた分、たくさんゲームするようにと、コートに立たされたけれど、考え事をしながらだったせいもあり、パートナーの足を引っ張るばかり。あ、ダブルスしかしなかったのよ。

「体調、よくないんじゃない? 疲れない内に休んだ方が」

 東野君が言い出して、成美と司も「そうしたら」と心配げに勧めてきた。自分がゲームから外れて審判に徹するつもりで、あたしは同意したのだけれど、それっきり、全員でテニスそのものを終えることになった。あたしが加わってから小一時間、悪いことをしちゃった。対策を練るには、ありがたいんだけれど……。

 まだ日は高いから、外の施設を回ることにした。といっても、あたしは体調が悪いってことになってるので、部屋で休まざるを得ない。予定がころころ変わりすぎで、五人揃って回らないというのは問題ありだけど、「回れなかったら、みんなの話を聞いて、適当に書くから」と言って、ごまかしておく。

 部屋に一人でいる間に、対策を色々と考え、夜、江山君にそれを伝えて、決定しようという寸法ね。

 みんなの出発を見送る間際に、その話を江山君とひそひそしていたら、司がめざとく、見とがめてきた。

「二人で何の話してるの~」

 言いながら、じと目で見上げてくる司。明らかに嫉妬してるよぉ。思い返せば、江山君とあたしが二人並んでテニスコートに来たときも、何だから羨ましそう(恨めしそう?)にしていたし、その直後、江山君とペアを組んで、東野君と司のペアと対戦したら、あたしのときだけやたらと強く打ち込まれた気がする。今日のことがなくても、あたしは江山君の家を訪ねる機会が増えているわけで。

「えー、夕食のそ――」

 適当に答えようとする江山君を突き飛ばし、あたしは司の片腕を引っ張った。二人だけで内緒話の格好だ。

「ねえ、司。四人で回るのって、効率が悪いと思わない?」

「そんな今さら。飛鳥の調子が戻ったら、そりゃあ、全員で」

「違うったら。あんた達四人が二組に分かれて、片方は最初から、片方は終わりから体験して行けば、早いじゃない。合流したら、教え合って、面白そうなとこだけつまみ食い」

「それはそうかもしれないけど」

「その組み分けだけど、男女のペアがいいと思うんだ。司は当然、江山君とがいいでしょ?」

「――」

 鼻息が聞こえたような。司の様子を窺うと、目の動きが挙動不審だ。

「い、いやー、それはいい考えかもしんない。けどさ、そううまく、組み分けできるかなあ?」

「だからさっき、江山君にお願いしたの。組み分けを、グーとパーで決めることにして、江山君はグーを出し続ける。司もグー。いいわね?」

「……飛鳥ちゃん、感謝」

 両手を強く握られた。とっさの思い付きに、そこまで感謝されると、こっちの心が痛むよ。

 とにかく、これで走り出してしまったからには、後戻りできない。急いで、江山君に駆け寄り、あたかも念押しするかのようににして、耳打ちした。

「――分かった」

 一瞬、目元をしかめた江山君だけど、さすが、飲み込みが早い。イニシアチブを取り、二組に分かれることをみんなに提案した。

 グーとパーによる組み分けは、幸いにして、二回目で東野君と成美がともにパーを出し、決着した。ほっとする。長引くと、江山君と司が揃ってグーを出し続けるのが不自然に見えたに違いないもの。

「不本意だが、仕方がない」

 東野君は角の立つようなことを言っておきながら、成美の前に跪いた。

「エスコートさせていただきます」

「――なーんか、二重に腹が立つわ」

 成美ったら、東野君のおでこをちょんと押すと、さっさと先に歩き出した。バランスを崩した東野君は、片手を地面につきながらも立て直し、まだ「お待ちを」なんてやってる。

「あっちの二人は、最初の方から回るようだから、僕らは後ろからだね」

 江山君が司に声を掛ける。司は、表情を柔らかくしようとしたのか、肌のてかりを気にしたのか、頬の辺りを手のひらでこすってから振り向いた。

「ええ。ゆっくり回ろうね」

 司のしゃべり方、普段のようになってる。これなら大丈夫だよね。

「行ってらっしゃい。はりきりすぎて、怪我しないようにね」

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