第14話 ホワイトアクセスマジック 14

 それとも、最初から警察に通報するべきなの? 人殺しの話を聞きましたっていうだけで、警察が来てくれるんだろうか。それに、来て捜査した結果、何事も起きなければいいけれど、あたしが嘘をついたと思われるかもしれない。警察が来たら、モニターのことだって、ぶちこわしになっちゃうだろうし。できれば、おじいちゃんに迷惑を掛けないようにしたい。

 ああ、だめだ、一人で考えても。警察どうこうって話も含めて、誰かに相談しないと。結局、最初の問題に戻ってしまった。

 とにかく、部屋に帰ろう。みんなが心配してるかもしれない。あたしを捜して、部屋に誰かが来たら、魔法を目撃される恐れだってある。

「ラスレバー・エブリフェア」

 あたしは自分の部屋を強く思い浮かべると、呪文を唱えた。

 ひょっとしたら、さっきの人影がまだ近くにいて、声を聞かれると恐いから、小声になった。


 移動完了と同時に、頭をハンガーにぶつけた。いたた。

 もしも誰かが部屋に来ている場合を考え、壁に埋め込み型の簡易クローゼットの中に移動したのだけれど、ハンガーがいくつもぶら下がっていたのを忘れてた。扉をそっと開けて、外(と言っていいのか、部屋の中と言うべきなのか)

を窺う。誰もいないようだ。部屋の様子も、着替えてきたときと変わってない。

 あたしはクローゼットから出て、部屋の机に置かれたパンフレットで、テニスコートの位置を再確認した。頭にちゃんと叩き込み、今度こそ迷わないようにと、出発。それと同時に、例の件を誰に話そうか、今一度考える。

 建物から出た時点で、結論も出た。

 もしかしたら、魔法で事件を食い止められるかもしれない。だったら、相談相手は一人しかいない。

 テニスコートを目指して、歩みを速める。自然をなるべく残そうという方針なのかもしれないけれど、通路を整備するか、方向を示す矢印でもあればいいのにと思った。

 と、前から誰か来る気配が。

「――江山君」

 俯きがちにして急ぎ足だった江山君は、あたしの声に顔を上げ、立ち止まった。硬かった表情が見る間に和らぐ。

「あ、ちょうどよかった。あんまり遅いから、様子を見に行くところだったよ」

「ごめんなさい、道に迷ってて。こっちに来てるの、江山君一人?」

「うん。じゃんけんで負けて、見に行くことになったから。今、向こうじゃ、東野が二人にコーチしてるよ」

 それはラッキーだわ。あたしは、周りに他の人がいないのを確認してから、起こったことを話した。

「――要するに、松井さんとしては」

 聞き終わるや、江山君は口を開いた。

「まず、事件を未然に防ぎたい」

「ええ」

「二番目に、離れた場所にいる人の声を聞こえたのが、魔法の力なのか、確かめたい」

「それもあるけど、人殺しが起きないようにするのに比べたら……」

「まあ、魔法に関しては、ゲームを進めていないのに身に付くなんて、これまでになかったんだから、他の可能性の方が高そうだ。後回しにしよう。人殺しの話、夜に決行というのは間違いないんだね?」

「多分。何時なのかまでは、聞き取れなかったけれど、真夜中なのは間違いないわ」

 江山君の口ぶりは、とても落ち着いていて、頼りになった。

「じゃあ、猶予はまだ少しあるわけだ。真夜中って、何時から何時までを思い浮かべる?」

「えっと、夜の十一時から朝の三時ぐらいまで、かな?」

「うん、僕もだいたい同じだ。大人にとったら、もう少し遅いかもしれないが、その辺りと見ていいと思うよ。そんな時間にアリバイを作れと言われて、作れるもんなんだな、大人って」

「え? あっ、電話の相手のことね。電話番号が分かれば、その相手の人を通じて説得できそうな感じもしたんだけどな」

「難しいだろうね。『千載一遇のチャンス』と言ったからには、瀬野さんや他の従業員とかじゃなく、モニター客の誰かなんだろうけど。管理人の苫田さんだっけ。本人なら、モニター客の中に知っている顔を見つけられるかもしれない。その人物が怪しいってことになる」

「あたしもそれは考えた。ただ、復讐とか言ってたから……苫田さんにも悪いとこがありそうで、聞きにくくない?」

「うーん。警察に知らせるのは、現時点では大げさすぎるし、まともに取り合ってくれるか、期待薄だろうなぁ」

「噂を流すの、だめかしら。誰かが誰かを殺そうとしてるって。そんな噂が広まれば、犯人――というか、犯行を計画してる人だって、思い止まるかも」

「どうかな? 自殺に見せかける自信があるんだろ、犯人は。ああ、面倒だから犯人と呼ぶよ。犯人にとっちゃあ、そういう噂が流れても、苫田さんに警戒さえされなければ、実行は容易い気がする」

「じゃあ、誰かが苫田さんを殺そうとしてる、っていう噂を」

「それは危険だと思うよ。別の犯罪を誘発しかねない」

「どうして」

 深くは思慮せず、反射的に聞き返していた。

「苫田さんて、人から恨まれて、命を狙われるような人物なんだろ。悪いことに手を染めてきた可能性、あるんじゃないか? そういう人が、自分の命が危ないと警戒したら、大人しく守りを固めるよりも、積極的に反撃に出る気がする。極端な場合、相手を突き止め、逆に殺してしまうとかさ」

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