第11話 ホワイトアクセスマジック 11

「ま、大した問題じゃないよ。使う内に馴染んでいくだろうし、部屋のタイプはいくつか用意されているみたいだしね」

「ほんと?」

「うん。自分達の部屋に行くとき、ちらっと見えたんだ。和室があった」

 ということはこのモニター、世代別に部屋を割り振ってみたのかな。最近は子供も疲れてるから、和室でも行けると思うのに。

 と、こういう意見こそ、モニターとして、アンケート用紙に書けばいいのだ。今は展示に集中、集中。

 けど、正直言って、展示は退屈な物が多い。お勉強じゃないんだから、エネルギーを生み出す仕組みとか、自然と科学技術の共存とかの説明をうだうだ書いたパネルは勘弁してほしい。理科の実験みたいな展示は面白いし、模型はわくわくさせる物があるんだから、そっちの方を多くしたらいいのに。

「多すぎる!」

 一時間ばかり経った頃かしら、東野君が声高に言った。近くに、他のお客さんがいたわけじゃないからいいのだけれど、びっくりした(そういえば、他のお客さんを、まだ全然見かけてない)。

「時々面白い物もあるが、こうも広くて多いと、飽きて来ないか?」

「珍しく、意見が一致したわ」

 成美がすぐに同意を示す。そしてみんなの方を向いて続ける。

「腹ごなしできたってことにして、外の施設に行ってみない?」

「賛成」

 元気よく言って、片手を挙げた司。東野君ももちろん賛成、江山君はどちらでもいいという風に、こちらの顔を見てくる。柄じゃないけど、今回はあたしが持ち込んだ話なので、あたしがリーダーみたいになってる。判断しなくちゃ。

「えっと、じゃあ、一旦解散する? 好きなことをすればいいんじゃないかな」

「それだと、あとでまた一緒に回ろうとしたとき、同じことをする羽目になる人が出るかもしれないよ。逆に、全部見られない可能性も高くなりそうだ。モニターなんだから、全部、見ないと行けないんだよね?」

 江山君の指摘、ごもっとも。頭をかくしかありません……。

「間を取って、テニスってことでよくない? 明日だと慌ただしくなるし、天気だってどうなるか分からないしな」

「どこが、間を取って、なのよ」

 東野君の提案に、成美がすぐさま突っ込む。でもそれは形ばかりだった。

「とは言え、悪くないかも。ねえ、飛鳥」

「はい?」

「夜も、展示は開いてるのかな?」

「ごめん、分からない。聞いて来る」

 全部聞かなくても、成美の意図は飲み込めた。展示を夜に回して、今の内に外の施設かテニスを楽しもうという寸法ね。

「夜でも大丈夫かどうかに関係なく、時間がもったいないから、このあとはテニスに決めちゃおうよ。あたしが聞きに行ってる間に、テニスコートに行って始めてて。場所取りの心配はないはずだけど、念のため」

「なるほど。ほんと、他のモニターの人に会わないから、貸し切り気分だわ」

 やっと方針が決まり、あたしは瀬野さんを探しに、みんなはテニスコートの場所取りに、それぞれ急いだ。


 宿泊用の棟やアキュア館から十メートルくらい離れた管理小屋(仮称)に、瀬野さんはいた。探し回ったわけじゃなく、見当たらないときはここにいますって聞いていたの。

 ドアをノックして開けると、瀬野さんは白髪のおじさん(おじいさん?)と話の最中だったのに、こちらを優先してくれた。あたしは急いで用件を伝える。

「ええ。夜九時までオープンしていますよ。泥酔していない限り、出入り自由です」

 冗談交じりに教えてくれたあと、眉を動かし、

「案内掲示のどこかに、開館時間について書いてあると思ったんだが、違ったかな……」

 と、怪訝そうな表情になった。言われてみれば、案内掲示の細かいところなんて、確認しなかった。そのことを告げたら、瀬野さんは首を横に振った。

「いえ、大変有用なご意見ですよ。表示してあっても、お客様に分かりにくければ意味ありません」

「……じゃあ、改善、お願いしまーす。掲示板もパンフも」

 笑顔でリクエストをしてから、瀬野さんの肩越しに、奥にいるおじさんの様子を見る。途中で邪魔されて、怒っているんじゃないかしらと、ちょっぴり心配だったから。

 おじさんはテレビ画面がいっぱい並ぶパネルを前に、腕組みをして座っていた。同じモニターでも、監視モニターがこの人の主な役目らしい。群青色の作業着みたいな制服を着込んでいることからも、管理人に違いないと思う。

「こんな小さなお客さんも来ているのか。自分のような強面に、務まるかねえ」

 あたしを見つけたおじさんは、自分で言った通り、確かに恐い顔をしている。細い目や眉は逆ハの字で、額や口元には深いしわが刻まれていた。座っているから背丈は分からないけど、横に大きくて、威圧的っていうのかな、そんな感じを強く受ける。

苫田とまださんほどの人生経験がおありの人なら、支配人兼管理人ぐらい楽にこなせますよ」

 瀬野さんの台詞で、おじさんの名前が分かった。それに、支配人も兼ねてるんだぁ。お偉いさんと縁の下の力持ちが合体したみたいで、ちょっと妙な気もするけど、えーっと、人件費削減ていうことなのかしら。

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