第10話 ホワイトアクセスマジック 10
「モニター宿泊の最中は、工事自体ストップしていますが、安全確保のため、立入禁止です。立て看板もありますから、間違えることはないでしょう。調整中の方は、危険でない場所なら出入り自由です」
「天体観測の催し物もいずれ行う予定とありましたが、これはまだ無理ですか」
江山君の質問が、やっと個人的な興味に移った。楽しんでほしい。
「すみません。天体観測はまだなんです。設備も整っていない上に、ナビゲーションをお願いする専門家を、探しているところでして……」
「ふうん、残念だな。あ、ありがとうございます」
そう言った江山君の後ろで、司がほわわんとした表情になってる。恐らく、妄想してるんだろうな、彼と二人きりで、星空を見上げているとこを。
「ただ、肉眼でもよく見えますよ、きれいな星空が。開発が進んだとは言え、都会に比べたらまだまだ明かりは少ないし、空気も澄んでいるはずですからね。この天気だから、夜も大丈夫でしょう」
「期待してます」
「ロマンチックもいいけれど、あたしは料理に期待してる」
成美が割って入った。
「名物料理って、何かありますか」
「郷土料理という意味でしたら、季節物だったり、癖のある物だったりで、一般メニュー化するかどうか、未定と聞いています。今回のモニターで、出るんだったかな……?」
「えー? そばとかうどんは?」
「それは準備しています。そうそう、自家製のソフトクリームは、試食をした女性社員に大変好評だったとか」
「おー、それは楽しみ。今日、晴れてる割に、ちょっと気温が低いけど」
「暑いところで食べたいよね、ソフトクリームとかアイスクリームは」
あたしが言うと、成美ばかりか、司も相槌を打った。
「喫茶店でクーラーが効きすぎだと、寒くて鳥肌が立っちゃう」
「そうそう。かき氷なんて食べた日には、こめかみが痛くなって、風邪を引いたんじゃないかって気になる」
「逆に、夏に鍋物でもOKって感じ」
女子三人で盛り上がると、前に座る男子二人は静かになった。
と、東野君が急に振り返る。成美に顔を向けて言った。
「行っておくが、荷物持ちしかしないぞ」
「他に何があるって言うのよ」
「三食はただと聞いたが、ソフトクリームとかジュースとかは別料金だろ? それをおごれとか言われたらたまらないので、今の内に釘を刺しておく」
「そっか。気付かなかった」
ほくそ笑む成美。東野君は対照的に、はっとして肩を落とす。
「しまった。気付かせてしまった」
口真似をするくらいだから、ほんとに「しまった」と思ってるかどうか、怪しいもの。ていうか、すでに笑ってるし。
こんな風にわいわいがやがや、にぎやかにやってる内に、あたし達を乗せた車は、高速道路をびゅんびゅん飛ばし、目的地まであと三十分くらいのところまで来た(らしい……瀬野さんの話だと)。
「予定より早く着きそうです。これなら道の駅に寄る余裕はあったかもしれません」
途中、成美がお土産を買いたいと言い出したのだけれど、スケジュールがあるし、行きしなに荷物を増やしてもしょうがないでしょって、やめさせたの。
「いいですよー。帰りに寄ってもらえれば」
東野君ばかりか、瀬野さんまで顎で使う気だ。
「着いたら、フロントでキーを受け取ってもらって、部屋に荷物を置いてから、食堂に集まってください。お昼を摂りながら、モニターしていただくポイントを改めて話します」
「そのポイント、今話してくれたら、時間の節約になるんじゃあ?」
瀬野さんに東野君が言った。食事しながら聞くんだから、「時間の節約」はおかしいと思うけど、自由にお喋りしながら食べた方がおいしい気はする。
「なるべく、ぎりぎり直前に説明をした方が、印象に残るのですが……」
渋る瀬野さんを、みんなで説得して(というよりも、ねだって?)、ドライブ中にモニターのポイントを説明してもらった。事前に渡された用紙と大差ないみたいだったものの、これでしっかり意識はした、うん。無料で遊ばせてもらって、いい加減な感想を出しちゃ、悪いしね。
名物の一つというそばやうどんで空腹を満たすと、いきなり眠気を催してしまった。普段よりは早起きしたせいかなぁ。あくびをかみ殺し、まずは展示物を見て回る。お腹いっぱいで運動するのも大変だから、体感・体験型施設の方は後回し。腹ごなしをしてからということに。
「きれいな建物だけど、ちょっときれいすぎる感じ」
展示物のあるフロアへ向かう途中、成美が言う。すかさず、東野君が応じた。
「そりゃ当然では。オープン前なんだから」
「当然なのかもしれないけどさ。人の住んでる場所って感じがしなくて、落ち着かないわ」
「ふむ。なるほど」
小さくうなずく東野君。あたしも他のみんなも同意した。
「未来的なイメージを取り入れてるね。アキュア館本体はともかく、宿泊施設の方は、普通っぽくしてよかったんじゃないかな。今のままだと、病室に近い雰囲気だよ」
江山君の意見は当たってる気がする。って、それじゃあ、おじいちゃんの責任になる? 困る~。あ、内装は違うんだっけ。
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