第7話 ホワイトアクセスマジック 7
「あー、多分、問題なしだよ。ちゃんと保護者がいるんだよね?」
「保護者っていうか、添乗員ていうか……」
「それなら。ま、だめそうだったら、お泊まり会ってことにすれば平気。うん、決まり」
「言っておくけど、男子が最低一人、参加しないと無駄になるんだから、今の内からあんまり張り切って準備しないでね」
「あ、そのことだけど、当てがあるの?」
「聞かずもがなの言わずもがな。たとえば、中学一年の弟のいる女子を引き入れられたらばっちりだと思うんだ。知り合いにいない?」
「いなーい。というか、何そのマイナス思考」
怒られるようなことをした、あたし?
「折角、たいぎめーぶんがあるんだから、男の子を誘おうっていう心意気はないの、飛鳥?」
「……そう来たか」
痛いところを突いてくる。でも、想定の範囲内。あたしの弱点は司の弱点でもあるのをお忘れなく。
「あたしにはこれといって、意中の人はおりませんけど、司サンにはいましたわね。ぜひ、心意気を発揮して、誘ってください」
「……あー、あー。聞こえない」
携帯電話じゃないのに、とぼけてる。
「江山君を誘う勇気、司はあるの?」
「何よ。最近は、飛鳥の方が親しくなってるじゃない」
「あれは、パソコンを教えてもらってるから。最初は授業のことを聞いていたのが、ほら、うちの弟が興味を持っちゃって」
多少の嘘は、友達関係を穏やかに回転させるオイル。だって、ほんとにあたし、江山君を恋愛対象には見ていない――つもり。頼もしいと感じることはあってもね。
「だったら、あたしに代わって、誘ってよぉ。江山君と友達なんだから、簡単にできるでしょ」
「司だって、江山君の友達だよ。何度か一緒に遊びに行ったじゃない」
「それはそうだけど、一対一になると、もうだめ」
「そんなんだったら、一つ屋根の下で寝泊まりするっていうだけでも、胸がどきどきして眠れなくなるんじゃない?」
あたしは冗談半分で言ったつもりだけど、電話口からは真剣かつ深刻な調子で返事があった。
「かもしれない~。やっぱり、誘わない方がいいかなぁ。そういうシチュエーションで江山君と顔を合わせたら、あたし、ふにゃふにゃになりそう」
うんうん。できればその方がいい。あたしとしても気を遣うのは疲れる。
「けどさ、江山君を外すとしたら、他に誰かいる?」
「うん、まあ。成美が参加OKだったら、ひょっとしたら東野君が乗ってくれるんじゃないかなって、期待してる」
成美と東野君は幼なじみってやつ。小さい頃から、マンションのお隣さんで、仲がいい、多分。会えば口喧嘩――主に成美が口撃して、東野君が受け流すって感じ――をすることもあるけど、それさえ「喧嘩するほど仲がいい」の好例に見える。ただ、お互いに好きなのかどうかは、ちっとも分かんない。
……話が脱線しかけてた。今、問題なのは、成美が参加できるかどうか、そして成美が東野君を誘うことに同意してくれるかどうか。
「東野君なら、誘ったら来ると思う。だけど、なるちゃんがいい顔をしないと思うなあ」
そうなのだ。東野君は女子に人気があって、もてる。デートも手慣れたものという噂だから、都合がよければ着いて来てくれるはず。
要するに、成美次第よね。さっきも書いたように、成美が意地を張って(かどうか知らないけれど)、口喧嘩モードになってしまったら、おじゃんになりかねない。唯一の希望なだけに、慎重に持ち掛けなくちゃ。
というわけで、司との電話を終えると、一呼吸入れてから、成美の家に掛けた。女友達への電話で緊張するのは、初めてかも。
「――はい、横川ですが」
あ、あれ? 男の声? 成美のお父さんの声はこんな若い感じじゃなく、渋かった。というより、この声って……。
「もしもし? 松井と言いますが、ひょっとして東野君ですか」
「ああ、松井さんかあ。当たり、よく分かったね」
「ど、どうして成美ん家に?」
声で分かったとは言え、驚きはほとんど変わらない。東野君は、軽い調子で続けた。
「最後の一桁を一つ間違ったんじゃないか。だから、隣の僕のとこにつながった」
「――信じかけたじゃないのっ。さっき、『横川ですが』って言った」
「ばれたか」
舌を出している姿が楽々想像できて、何だか精神的にとても疲れる。
「宿題の教え合いに来てるんだよ。教わり合いとも言う」
「また嘘だぁ。試験が終わったばかりで、宿題なんて出てないもんね」
「ああ、どうして素直に信じてくれないんだ。さては魔女だな、こんな簡単に見破るなんて」
少し、どきり。「魔女」って、洒落にならないよ。笑って動揺をごまかしてから、今度こそ本当のことを言ってと頼んだ。
「実は」
凄く重要なことを打ち明ける口ぶりの東野君。あたしは、電話なのに身を乗り出した。
「借りていた物を返しに来てるところ。今、横川さんはトイレ中で、代わりに仕方なく、電話に出たというわけさ」
大して重要じゃない内容に、気が抜けた。でも、今度こそ本当っぽい。隣同士なんだから、物の貸し借りがあって、不思議じゃないし。
「そんで、何か用があるんだろ? 伝言でいいのなら、聞いておくよ」
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