第2話 ホワイトアクセスマジック 2

 サンタと言われれば、そう見えなくもないデザインになっている気がしてきた。サングラスは、正体を隠すアイテムというわけね。

「それよりも、このホワイトロールって、これだけ? 確かに雪はきれいだけれど、現実には役立ちそうにない感じ」

 苦労した割に報われない。そんなつもりでこぼしたあたしに、江山君は「とんでもない!」と首を横に振った。

「雪を自由に降らすことができるっていうのは、とてつもなく大きな力だよ」

「そうかなあ?」

 分からなくて、小首を傾げるしかない。

「考えてもごらんよ。君が現実に、雪を自由に降らせられたらって」

「今の季節に降らせたら、みんなを驚かせる」

「……まったく」

 ため息をつかれてしまった。あ、そんな目で見ないで。

「大雪が降ったら、世間はどうなる?」

「あっ。交通が麻痺しちゃう」

「それだけですまないよ。集中して降らせたら、建物は押し潰されるかもしれないし、生き物が凍死することだってあり得る。作物にだって、悪影響が出るんじゃないかな。わずかな気温低下でも、異常気象で不作につながる可能性がある」

「……大変な力なのね……」

 鈍感なあたしにも理解できた。全然、予想していなかった。魔法の力が、こんなにまでも重荷に感じるなんて。

 知らない内にうつむいていたあたしに、江山君が声を掛ける。

「まあ、具体的な心配と対策は後回し。まずは、どの程度の力なのかを調べることが先決だよ」

「程度って?」

 面を起こし、続いてゲームの画面を見る。江山君が指差していたから。

「雪を降らせられる範囲とか量とか、あるいは時間とか。そうそう、一日に何回も使えるのかどうかってこともだね」

「うん、分かった」

 江山君が一歩下がったのを見て、あたしは椅子ごと元の位置に戻る。パソコンと向き合い、魔法を起こすための操作をした。入力するスピードはまだ全然早くないけど、コマンド選択方式のところなら、簡単。

 現実にどのような形であたしに魔法が備わったのかは、ゲームで試すことができる。前は、魔法を身に付けたら、すぐさま実際に試したこともあったけれど、危険なので今はやめてる。今回は特に、慎重にならなくちゃいけない。

<アスカはレベル1の自然魔法を使った。

 アスカ「ラスレバー・ホワイトロール!」>

 最初のときと同じ表示。だけど、次の段階が、ちょっと違った。行き先や標的を指定するための輪っかが、画面上に出現したの。後ろで江山君が、「やっぱり」と呟くのが聞こえた。

「降らせる場所や範囲を、これで決めるんだよ、きっと」

「場所はともかく、範囲って、これ、どうやれば広がったり狭まったり――」

 言っているそばから、輪っかが大きくなったからびっくり。二十パーセントぐらい、直径が広がった? 慌てて手元を見る。えっと、確か今、ジョイスティックをぐるっと……反時計方向に回したんだよね、うん。

 そのことを江山君に伝えると、「じゃ、時計回りにやってみて」との返事。

言われた通りにすると、輪っかは狭まり、元々の大きさになった。

「この調子で、雪を降らす範囲を決められるんだな」

「さっき、最初に降らせたときは? 何にもしてなかったのに」

「あれは多分、サングラス男からのプレゼントだから、街全体を雪で覆うというのが、予め決められてたんだと思う。サングラス男自身の手でさ」

「ふうん。とりあえず、やってみるね。範囲は一番狭くして、と」

 時計回りに回すと、三度目以降は輪っかは小さくならなかった。このサイズが限界みたい。

「あ、決定する前に、広げる方の限界も見ておこう」

「そうね」

 言われるがまま、反時計回りに何度も回す。数えていなかったけれど、画面の四隅を越えて、はみ出す感じになった段階で、広げる方は止まった。

「見える範囲なら、全て対象にし得る……ってことかな」

 江山君の想像が当たっているとしたら、世界中を異常気象に陥れる心配だけはなくなった、と思っていいのかしら。

 それはともかく、またまたジョイスティックを時計回りに、ぐりぐり。最初の輪っかにしてから、範囲を決定。場所の方は、すでに固定されちゃってる。範囲を決める前に、輪っかを移動させておく必要があるみたい。まあ、今は試しなんだし、このままで。

 すると次は、降らせる程度を聞いてきた。と言っても、選択肢は「弱」一つしかない。

「これは……?」

 後ろを振り返る。江山君は立ち上がっていたから、あたしは見上げる格好になった。

「うーん。恐らく、レベル1の自然魔法は、雪の強さが『弱』だけなんだろうなあ。レベルが上がると、『中』や『強』が選べるようになるんだと思う」

「だったら、別に今のままでいい」

 さっきの江山君の注意が、凄く重荷になっている。レベルを上げるのは、治療魔法や移動魔法で充分だよ……。

 あたしは一つしかない選択肢を選んだ。と思ったら、ゲーム世界のアスカは、杖を一降り。同時に、輪っかで指定された極狭い範囲に、雪がちらほらと降り始めた。

「降らせる時間の長さは、指定できないようだね」

 江山君が言う。見ている内に、雪はやんだ。白い丸が、アスカの手前にできていた。

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