ホワイトアクセスマジック
第1話 ホワイトアクセスマジック 1
昨日最終日だった定期試験の苦手科目で、山を張ったとこが悉く的中したので、何となく、いい予感はあったのよ。
「あ。来た」
けれど、実際に予感が当たると、やったというより、やっとという感じしかしなかったのは、これまで通りのこと。
「来た? 新しい魔法が?」
部屋の主、江山君が出しっ放しのこたつテーブル(掛け布団はもちろんなし)から面を起こし、あたしの方を見た。
あたしも肩越しに振り返り、「うん。これ見て」と、占領していた彼の机の前を空ける。机上にはパソコンが一台、鎮座していて、やや古めかしいタイプのRPGが画面上で展開されている。というか、あたしが展開させていた。
「どれどれ。今度は何ていう『ラスレバー』?」
中年のおじさんめいたフレーズを言いながら、江山君は画面を覗き込む。
「これ。『ホワイトロール』だって」
見れば分かることだけど、あたしは画面下部を指差した。そこには二行、文章が出ている。
一行目は<アスカはレベル1の自然魔法を使った>。二行目には会話文で、<アスカ「ラスレバー・ホワイトロール!」>という表示。
前から思ってるんだけど、逆じゃないかしら、これ。呪文を唱えることで、魔法が使えるんだから。
と、そんなことよりも。
「ホワイトロールって、お菓子にありそうな名前だな。で、どういう魔法なの?」
「まだ何も起きない……」
「誰かに教わるか、何かを読むかして知ったんだよね。そのとき、魔法の効力については?」
「それが、左側にいる怪しげな男に教えられたんだけど、魔法名だけで、あとは『素敵なことが起きる。信じるのもよし、信じないのもよし』と言うばっかり」
「それで使ったの? 危ないなあ」
画面の左半分、そのほぼ中央にいる男は、サングラスを掛けたような顔立ちで白髭を生やしている。それを指差しながら、江山君。
「見るからに怪しいじゃないか」
「だって、ここで試さないと、この『ホワイトロール』を身につけることは二度とできない、なんて言うんだから」
「だまされてる可能性ってものを、ちょっとは考えなきゃ。現実に影響を受けるってこと、忘れちゃだめだ」
江山君が怒った。
それは分かるんだけど、ここしばらく、というか、長い間ずーっと、新しく魔法を見つけられないでいたから、つい飛び付いちゃって。試験の山が当たってたし……。
でも、反省しよう。これは、あたし自身に関わってくること。この「Reversal」というゲームにおいて主人公が会得した魔法は、現実世界で、あたし・松井飛鳥が使えるようになるのだから。ただし、この現象は、あたしが設定したアスカというキャラクターを選び、あたし自身がプレイをしたときしか起こらない。どうしてかって聞かないでね。本人にも分からないんだから。
一応、このゲームのプログラムが入っていたディスクを拾って、江山君のパソコンで調べてもらったときに、感電みたいなショックを受けたのが、その原因らしい――というのが江山君の仮説なんだけれど、証拠はないし、証明もできないでいる。
そんな超自然的で不気味なゲームを、何で今もプレイしてるかっていうと、ディスクあるいはあたし自身が狙われた経験があるからなんだ。ゲームを進めて魔法を一つでも多く、獲得しておくことが、身を守ることつながると信じ、日々努力してるのであります。プログラムを調べようとしないのは、万が一、ゲームを壊してしまったら、どうなるか分からないため。江山君が言うには、ゲームの規模から推測すると、フロッピーディスク一枚に収まるのはおかしい気がするんだって。ディスク自体にも、魔法が使われているのかもしれない。
「――画面に、白い点々が」
記憶に浸っていたあたしの耳に、江山君の声が聞こえた。画面に焦点を合わせると、彼の言う通り、上からちらちらと、星形をした細かな白い点が降りて来てる。それは段々、表示された物語世界を覆うように、範囲を広げていく。
「これ、雪じゃない?」
気が付いた。江山君も、「ああ」と合点した様子。そんな会話の間にも、雪らしき物はどんどん降り積もり、世界は白銀に染まる。
「グラフィックがいまいちだから、すぐには分からなかったよ。でも、積もったグラフィックの方は、結構いいね」
「この星形って、一応、雪の結晶を表してるみたい――あっ」
画面下部の欄に、新しいメッセージが出てる。
<男「この贈り物の意味を知りたければ、日付をごらん」>
すぐさま、あたしはゲーム上の日付を確認した。画面左上の端っこに、白い細字で常に出ているのだれども、意識したことはほとんどなし。
「あ。12月24日になってる」
季節が六月を迎えようっていうときに、パソコンの中ではクリスマス。すっごい違和感があったけれど、プレイヤーが進める分しか、ゲームの時間は進まないのだから、仕方がない。真夏にクリスマスネタやバレンタインネタをやるテレビアニメより、ずっと理にかなっているってもんよね。
「ということは、サングラス男はサンタクロースなのか。このゲームの世界にサンタがいるとは、知らなかった」
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