第6話 『アクセスマジック』へのアクセス:6

「でも、証拠なんて残ってるかなあ。あったとしたって、レスキューの人の手が入っているんだから、元の状態がどうだったかなんて分からない」

「ノートでは、どんな風に助けているのさ? 魔法でトンネルを掘ったとか?」

「ううん。現場まで行って、トンネルを埋め尽くした岩の外から、元気になるように魔法――魔力を送っている。治療・治癒の魔法ね」

「ていうことは、現場に痕跡は残らないと。救助された人の証言が見付かればいいんだけど。事故から六日目でも元気だった、不思議と力がわいてきたという風な」

 言いながら端末を操作する高月君。

 私はノートを探し、二つ目のエピソードの最後の方が書かれていたページを開いた。

「これ、助かった人の名前。本名かどうか分からないけれども、市原須美子さんと娘さんの茉莉奈ちゃん」

「ノートを書いた時点では、報道でも本名を流しただろうから、そのまま物語に東欧させたかもしれない。ただ、今はどうかな。当時、取材したマスコミがいたのは間違いないだろうけど、現代のネット事情を思うと、本名付きで証言の記録を公開している可能性は高くなさそうだ。もしそうだとすると、名前の情報はかえって検索の邪魔になるし、難しいところだね。まあ。真偽不明の証言なら、ちらほらと転がっているみたいだから、気長に探してみよう」

 救助された人達の証言探しはあとでやるとして、私は別の線も探りたい。

「証拠や証言以外で、他に当たってみる値打ちのありそうなことって、何かない?」

「他には……思い付かないなあ。やはり証言だよ。一番なのは、助けた本人に話を聞くのがいい」

「え? 本人て……お母さん?」

「うん、そう」

「どうして。ほら話かもしれないのよ」

 分からなくて、首を左右に振った。髪が乱れたので、直しながら答を待つ。

「信じるっていう前提で動いてるんだろ。だったら、お母さんの話を聞いて、当事者しか知りようのない証言があれば、報道や事故の記録と突き合わせるんだ」

「そっか。逆に言えば、お母さんの話が嘘なら、事実と決定的に異なる、間違いを口にするというわけね」

「はは。分かってくれたのは嬉しいけれども、君はお母さんを信じたいのか信じたくないのか、どっちなんだろ?」

「……信じたい気持ちが大きくなっている。けれども、結局は真実が知りたいって気持ちが一番強いわ。ただ、長いことお母さんの話を信じずに、聞き流していたから、今さら聞きにくい……」

 こんなことになるのなら、早い内からちゃんと聞いておけばよかった。ていうか、お母さん、どうしてノートを見せてくれなかったんだろ。書いたこと自体を忘れてたのか、どこに仕舞い込んだのか場所を覚えてなかった?

「君のお母さんに限定する必要はないかも。ノートの描写の中に、直接現場に行って救助に携わった人でなければ知りようのない事柄があるのなら、当事者の証言が有効になってくる」

「救助の当事者というのとはちょっと外れるけれど、レスキューの人達が夜中に一時待避したあと、見張りというか監視に立っていた人について書いてあった。お母さんと会話している」

「お。じゃあ、その人がインタビューを受けていれば、ひょっとしたら話しているかも」

「どうなんだろう……幻扱いされているんだけど」

 当てはまるシーンを、ざっと読んでみせる。

「ははあ、なるほど。これはその男性が取材を受けていたとしても、しゃべったかどうかは五分五分、いや、四分六分で厳しいかな。仮に話していたって、それを記事にするかどうかは記者の判断だろうしねえ」

 だめかぁ。もう、お母さんも人命救助したならしたで、それと分かる印をどこかに残しておけばいいのに。

「とりあえずネットで検索してみないと分からないけれど、空振りに終わったら、最後の手段を執らざるを得ないな。

「最後の手段て?」

「僕らがその男性を探し出して、直に会って話を聞くのさ」

「――真面目に言ってる?」

 まだまだ子供な私達に可能かしら、そんな探偵みたいなこと。

 訝しむ私の前で、高月君は文字通り大真面目な表情で、うなずいた。

「一応は。探し出す方法とか費用とかは考えてないけど」

「もう」

「いや、でも、見張りの人がいたのなら、割と簡単に特定できる可能性はあるだろ。救出に関わった人達の記録が、今でもどこかにあるはず」

「……それもそうね」

 ほんの僅かだけれども、希望が見えたような。到底越えられそうにないそびえ立つ山のように思えていた難題が、高月君のしゃべり方がうまいのか、行けそうな気が段々としてきた。

「てことで、君は検索から着手してみてくれるかい」

「もちろんいいけど、高月君は?」

「僕はノートの物語に目を通しておきたいな。最低でも一つは」

 そう言ってから、彼は窓のある方を振り返った。相変わらず、雨粒がガラスを強く叩く音がしている。

「最初よりかはましになったけれども、まだこんなに降ってるなんて。夕立じゃなかったんだな。意外と長引きそう」

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