第5話 『アクセスマジック』へのアクセス:5
「お母さんに許可をもらってないからという理由で君が躊躇っているのだったら、他にもやれることはあるよ」
「えっ、どんなこと?」
「検索するんだ。ノートの記述の中から、新聞やテレビのニュースになっていそうな出来事を選んで、その真偽を調べる」
「そっか」
「大きな事件・事故の類があればもってこいなんだけど、そういう記述はなかった?」
「えっと、読んだ分の中では落石事故が描かれていたわ。本当に発生していたのなら、確実にニュースで報じられているわよね」
「うーん、規模によるだろうな。当時のニュースどうこうじゃないんだ。それなりに大事故じゃないと、現代のネットに情報は残っていないかもしれない。あったとしても見付けるのに手間取るね、きっと」
高月君は物語に出て来た落石――岩盤崩落事故の悲惨さを知らないのだから、この見方は当然よね。私は急いで事故の概略を話して聞かせた(物語的にはネタバレになるけど仕方がない)。
「――救助された人はわずかで、こんなに酷い事故が実際に発生していたなら、今でも記録が残ってるんじゃない?」
「落石とだけ聞いたから、そんな大事故だとは思わなかった。死者が多数出たのなら、まず間違いなく残っている」
「じゃあ、見付かれば、ノートの内容の信憑性の……?」
「事故が事実だったと分かったからと言って、フロッピーディスクのゲームをプレイして魔法使いになるというのまで真実とは限らないけれども、補強材料にはなる」
「分かった。やってみるわ」
私は愛用の携帯端末を使い、ネット検索をスタートさせた。今のご時世、プライバシー保護の観点から個人名での検索はあまり期待できない。しかも、場所は物語の中ではぼかして書かれていた。
「確か、D県と記してあったんだけれども、イニシャルがDの都道府県なんてあったかしら?」
高月君は「ないね」と即答。
「恐らく、場所を特定しない書き方を選んだんじゃないか。悲惨な事故ほど、当事者への配慮が必要だっていう考え方をするのなら」
お母さんはどうだろう? そんな風に考えて母親を見たことがないから分からないけれども、気遣いは自然にできる人だ。
「何にせよ、場所で絞れないのは明らかだ。他に分かっているのは?」
年代と落石、落盤、岩盤崩落事故といったキーワードだけで、見付けられるのかしら。
「仮にネット上で見付けられなかったとしても、本当じゃなかったんだと決め付けるのはまだ早い。図書館にでも足を運んで、当てはまる年の出来事をまとめて記録した媒体に当たって、初めてはっきりする」
先のことまで考えている様子の高月君。頼もしい。少し気分が軽くなって、検索に取り掛かった。
そして、求める答は拍子抜けするほど簡単に見付かった。検索結果の上位二つに似通った事故が表示され、その一つがノートに書かれた事故と、年代的に合致するみたい。
「岩盤崩落という表現が、あまり使われない言葉だったみたいだ。この二つの事故で世間的に知られるようになった表現で、だからこそ検索で簡単に見付かったと言える」
分析する高月君の二の腕を私は突っついた。
「それよりも、現実に起きた事故なのは間違いないのよね。生還した人の数も一致しているわ」
「えーっと、僕はまだ読んでないから分からないんだけど、物語では魔法使いとなった主人公、多分君のお母さんが、事故に遭った人達を助け出しているんだろうね?」
「ええ」
「実際にはどうやって救助されるに至ったか、書いてあるサイトはないかな」
いつの間にか、高月君も彼自身の携帯端末で検索を進めていた。画面を覗き込んでみると、事故の様子を映した写真が表示されている。遠景からで、トンネルを上から押しつぶす風に、巨大なラグビーボール型をした岩が突き刺さっていた。言葉を失う構図だった。お母さん達が当時、事故の報道を見て衝撃を受けたというのがよく分かる。
「素人考えだけど、これはちょっとやそっとでは救出できそうにないな。重機の入れようがなさげ……。人海戦術を採るとしたら何日も掛かって、中の人達はそれまで持ちこたえられるんだろうか」
「あっ、全員の安否が判明するまで、一週間掛かったって書いてあるわ。一週間という長さは、ノートにも同じことが書いてあった」
「期間も一緒か。これまた事実であることの傍証にはなるけれども、確実なものではないなあ。極論するなら、実際の事故を参考にして、魔法の登場する物語を創作したとも解釈できる」
「だったら、何を探せばいいって言うのよ」
ちょっと苛立ってしまった。口調にも感情が表れて、とげとげした物言いになる。そんな自分を、高月君が振り返る。彼が一瞬、むっとした表情になったのが分かり、私は反省した。けど、私が謝るよりも早く、高月君が苦笑いをして話し始めた。
「ごめんごめん。僕の言い方が曖昧だったかもしれないな。魔法や超能力でもないと助からなかったろう、と思えるような証拠や証言が欲しいんだ」
「そ、そういう意味で言ってたのね」
私は自分の短気を内心恥じながら、頭を掻いた。
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