第4話 『アクセスマジック』へのアクセス:4

「隙間っていう言い方で合っているかどうか分からないけど、こう、モニターと本体があって、その空いているスペースに」

 手で四角いフォルムを宙に描き、極々簡単に説明する。自分のことながら、頼りないしゃべりだなぁ。

 高月君は一度首を捻ってから、「もしや、君の言うパソコンて、デスクトップ?」と聞いてきた。

「デスクトップだかデトックスだかは知らないけど、とにかく旧式なのは確かよ。再放送の古~いドラマで、オフィスに置いてあるような。インターネットにつなげられるかどうかも怪しいくらい」

「いや、ネットにつなげるスペックは多分あったと思うけど」

 何年前ぐらいになるのかをざっと計算するためらしい、上目遣いになりながら指折り数える高月君。

「何でまた、紙のノートをパソコンと一緒にしていたんだろう? ワープロソフトかエディタを使って、清書すのるつもりだったのかな」

「うん、それもあるかもしれないけれど、物語の最初の方に出て来るの。パソコンとフロッピーディスクとかいうのを使う場面が」

「フロッピー? それはまた旧い。まあ、時代的には当たり前か」

「高月君、分かるの?」

「分かるってほどじゃないよ。親父がむか~し使っていたのを、小学生のときに触ったことがある程度」

 納得しかけたけれども、高月君が小学生の頃と言えば数年前だ。彼のお父さんがそんなパソコンを現役で使っていたとはちょっと考えにくいんじゃない?

 そんな疑問が顔に出ていたのかな、高月君は補足してくれた。

「小学何年生のときだったかまでは覚えちゃないが、夏休みに親父の実家の方に家族揃って帰省したことがあって、じいちゃんばあちゃんの家にはネット環境が全くなくってさ。びっくりしたよ。でまあ、ネットが使えないのは我慢するというかあきらめるとして、自由研究の宿題をワープロで書くつもりだったから、慌てた。そこで親父が引っ張り出してきたのが、旧い型のパソコンだったってわけ」

 そういういきさつならよく分かる。

「にしても興味あるな。読む前に、先に旧型パソコンを見てみたい」

「読んでからの方がいいかも。その、パソコンとフロッピーディスクが出て来る場面を」

「何で?」

「フロッピーディスクが、超常現象的な出来事の原因らしく描かれているから」

 私は高月君からノートを一時的に取り返し、当てはまるシーンの書いてあるページを探した。

「ほうほう。書かれた時点ではきっと時代の最先端だった記録メディアに、いかにもな魔法の秘密を組み合わせるというのは、ちょっとユニークかもしれないな。ただ、現代から見ると妙な組み合わせ感が大だね」

 パソコンに興味津々らしい高月君に、私はノートのあるページをしっかり開いて、改めて渡した。

「そこにあるわ。展開自体は、まるっきりライトノベルか古くさい少女漫画のラブコメのノリで、恥ずかしいところもあるけど」

「分かった。パソコンのあるところまで案内してくれる? 歩きながら読み始めるから」

 私は頷き、テーブルに目線を戻した。

「でも、まずはコーヒーを飲んでからにしよっ」

 温め直したいくらいだったけれども、そこまで時間を取るのももったいない。雨が止まない内に、そして高月君の関心が薄れない内に、パソコンのあるところまで連れて行かなくちゃ。


「飛ばし飛ばしに読んだだけだけど、フロッピーディスクのゲームをプレイして、何故だか魔法の力が身に付いたという流れは分かった」

 高月君は、私が最初にノートを見付けた部屋に来て、デスクトップとかいうパソコンその他を見下ろしながら言った。

「さっきからの言動から推測するに、君はまだフロッピーディスクのゲームをプレイしていない。それどころか、パソコンの起動すらしていない」

「それはそうよ。よく分からない物には手を出さない主義っていうか」

「いや、性能で言えば、今のパソコンより格段に劣るんだから、恐れる必要はないと思うんだが。確かに、隔世の感はあるものの」

 モニターの角を撫でる高月君。

「一応ね、私も試そうかなとは考えていたのよ」

 言われっぱなしも癪なので、反論しておく。嘘じゃないもの。

「ただ、ノートを読んだ限りじゃ、ゲームをやった人みんなが魔法を使えるようになるわけじゃないでしょ。それに万々が一にも、ほんとに魔法使いになったとしたら……ちょっとどうしたらいいのか分からなくて怖くない?」

「気持ちは分からなくもない。特に、君は無意識の内に、ノートに書かれている内容を信じたいと思っているみたいだし」

「……そうかも」

 言葉に出して言われると、はっきり認識できた。もしも本当の出来事なら、それをお母さんが体験したことであるなら、私も同じように体験をしたい。ただし、ほんのちょっぴりでいい。悪人退治や人助けをするのは、私には荷が重いから。

「さて、どうしようか。パソコンの状態は、外見からは分からない。電源だけでも入れてみる?」

「うーん」

 躊躇しているのは、今のシチュエーションが、ますますノートの中見に似てきたからだと思う。あれと同じ展開は御免蒙るわ。

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