第12話 お祈りアクセスマジック 12

「何してたのよ!」

 ふらふら、くらくらしてる頭に、成美の声はこたえる。

「どこから電話してるの?」

「それは、まだ……。うまく行った?」

「二度、ごまかしてるわよ。だけどね、もう限界だから。三度目もあんたが電話口に出なかったら、どう考えても怪しまれるわよ!」

 あたしは公衆電話の受話器を、耳から遠ざけた。一段落したのを見計らって、また押し当てる。

「ありがとうね、成美」

「どういたしましてっ。で、いつ、帰って来るの?」

「今日の午前中には。それでね、もう一つ、お願いがあるんだけど……」

 恐る恐る。

「この上、何だっての?」

「あたし、家に帰る前に、成美の家に寄るから、服、貸してくれない?」

「はあ? どうかしたの、服?」

「ちょっと……。土とか泥とか油とかが、べったりで」

「まじで何をしてたのよ?」

「今は説明、勘弁して。あ、テレカもなくなりそう。じゃ、よろしくね。感謝してる」

「あ、こら」

 成美のわめくのを敢えて無視して、あたしは受話器を戻した。これまた頭に響く音を立てて、テレカが戻って来た。一度数、残ってるかな。

「江山君は、電話しなくていいの?」

「東野の奴に頼んでたから。あいつ、うまくやってくれるんだ」

 江山君の笑顔も疲れていた。

「早く、作業が進まないかな」

 ラジオの電池は切れていた。だから、現在、どの程度作業が進んでいるのか、さっぱり分からない。

「もし、今日、運び出された人に生存者がいなかったら、どうするつもり?」

「今夜、ここに引き返してくる。そしてまた一晩中、治療をするわ」

 言い切る。それしかないじゃない。

「君って人は」

 わざとなのかどうか、ふらつく江山君。あたしは急いで彼の腕を取った。

「ほら、しっかりして。とにかく一度、帰るんでしょ。ちゃんと手をつないでないと、帰れないかも」

「はいはい。頼みます」

 ぼーっとしてる頭を何度も振って、すっきりさせる。イメージするは、成美の家の前。あたしは小さな杖を取り出し、さすがに疲れ切った声で唱えた。

「ラスレバー・エブリフェア……」


           *           *


<はい、現場です。事故発生からちょうど一週間目の今日、日曜日。ようやく、閉じ込められていた方全員の安否が確認されました。生存者が確認されています。残されていた二十名の内、三名の生存が確認されています。お名前の方は、お二人だけ分かっています。乗用車に家族四人で乗っておられた市原須美子いちはらすみこさん、二十九歳と、その娘の茉莉奈まりなちゃん三歳の親子です。もうお一方ひとかたは、観光バスの乗客で、若い女性、女の子ということです。

 えー、救助隊の人の話によると、生存が確認できた三人は、身体の小さな茉莉奈ちゃんは別として、押し潰された車内で身体を丸くした状態で見付かったということです。女性の身体が柔らかいとは言え、三歳の子まで助かるなんて、これは奇跡としか思えない。そう語って身体を震わせる姿が印象的でした――>


――Period2.終

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