第7話 お祈りアクセスマジック 7
「想像だけどね」
口調を改めた江山君。あたしの方は、落ち込んできちゃった。
「それに、はっきりしている点だけで考えても、かなり無理があるんじゃないかな。まず、君の魔法を他人に明かしていいのかどうか」
「そ、それぐらい」
言い切ろうとして、できなかった。不安が顔を覗かせる。
「まだあるよ。もう一つの数の問題が」
「またあ?」
「君が助けられるのは、全体の何パーセントだろう? ある救急病院で一人を助けている間に、他の何十箇所で苦しんでいる人がいる」
「……」
言葉、ない。
「こんな言い方するのはずるいと思うけど、自分の力に期待を持ちすぎない方がいいよ」
「――冷静」
「え?」
あたしのつぶやきに、江山君がこちらを向いた。
「冷静よね、江山君。やっぱり、あたしの方が浅はか」
「君の気持ちは――尊敬できる。だけど、軽はずみはよそう。魔法のことを明かすかどうかも含めて」
「……分かったわ」
授業開始まで五分に迫っていた。
実験をあれこれと行った結果、移動魔法は他の二つに比べて、かなり制限のある力だと分かってきた。
一日に二度しか使えないことに加え、移動させる物体は、あまり重たくてはだめみたい。せいぜい、あたしの体重の三倍まで。また、その物体を実際にこの目で見ることができないと、移動させられない。ペンケースの中の鉛筆一本も、ふたを開けずに取り出すことは無理なのだ。目に見えないほど小さい物体も移動不可能じゃないかと、江山君は推測している。
移動先については、映像の形でしっかりイメージすれば、どこでも大丈夫らしい。さすがに外国まではやってないけど、国内ならどこへだって行ける。どうやって確認したかって? テレビの中継番組で、目印を書いた紙を中継先に送り込むの。例えば北海道の時計台が映し出されたら、そのてっぺんに紙が引っかかるようにって。すぐに確認できるでしょ。自分自身を遠くに移動させるのは、まだやってない――だって一日に二回だから、失敗したら帰れなくなるかもしれないもんね――けど、うまく行くはず。
「レベルが上がったら、制限も軽くなると思うんだけど」
「そうね」
聞き流していた。日曜の朝、司達には内緒で、江山君の家を訪ねていた。
つけっ放しのテレビが、交通事故のニュースを伝えている。昨夜遅くから明け方にかけて起こった死亡事故三件だ。
「深刻に受け止めるなよ」
「でも、もし、あたしがいて、治療魔法を」
「自分の責任だなんて、考えるな」
江山君の言い方には、頼み事をする響きがあった。
「事故に遭った人の誰が死ぬか、あらかじめ知ることができれば、助けられるかもしれないよ。実際は分かりっこない」
「そういう予知の魔法、ほしい……」
「そんなものがあったら――」
江山君の話してる途中で、テレビから緊急のニュース。
<事故の知らせが只今入りました。先ほど、午前九時五十五分頃、D県のL山沿いを走る国道*号線のQトンネル内にて、落石事故が発生しました。トンネル内には、少なくとも数台の車両が取り残されている模様です。詳しいことは分かっておりません。繰り返します――>
画面が消えた。江山君がリモコンを使ったのだ。
「警察と消防の仕事だよ」
「わ、分かってるわよ。でも、変じゃない?」
「何が」
「トンネルの中で落石なんて。山をくり抜いたまま、岩石をむき出しにしてるわけないわよね」
「まあ、ちょっとおかしいかもしれない」
それ以上、この話題に関わりたくないという風に、口をつぐむ江山君。
あたしは、もう上の空。気になる。何か、大変な事故なんじゃないかって、胸騒ぎしてたまらない。
「帰る」
勝手に宣言して、家に戻った。
お昼を過ぎる頃には、詳しい状況が報道されていた。
テレビから流れてきた現場の映像は、最初の一報を聞いたときの想像を遥かに超えてる。
落石はトンネルの中ではなく、外で起こっていた。トンネルは岩壁のすそにお供えされるように作られている。そのトンネルの屋根にせり出すようにして、岩壁には大きな岩が張り付いていたらしい。「らしい」と言うのは、今中継されている映像には、岩がなかったから。石器時代の石斧の先みたいな形の巨大な岩が、トンネルに突き刺さっていた。
トンネルの二つの出入り口からは、中は窺いしれない。救急車や消防車が何台か停まっているが、手の着けようがなく、立ち往生という感じ。青や白やオレンジの制服を着たヘルメット姿の人達が、あっち行きこっち行きしている。
<観光バス一台、普通乗用車二台の三台が行方不明となっていますっ。トンネル内に閉じ込められている模様ですが、ここからは視認できません。中は全く見えません。バスの乗員乗客は二十五名、各乗用車は一名の方と四名の家族連れがそれぞれ乗っているということです>
そこかしこ、文章がおかしい。現場のレポーターの男性も、興奮しちゃってる。それだけ、信じがたい光景を目の当たりにしていた。報道の人も救出隊の人も、そしてテレビの前にいるあたし達も。
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