第6話 お祈りアクセスマジック 6

「だと思うよ。ウィルスによる病気だけじゃなく、精神病なんかも治療できないだろうね」

「そっか……」

 何となく、がっかり。

「どうしたの? いいじゃないか、自分に効くと分かったんだから」

「そうじゃないの。ちょっとだけ、夢みてたんだ」

 気恥ずかしいので、江山君には背を向け、空を見上げた。

「夢って?」

「あたしの力で病気を治すこと。治療方法が分かっている病気だけじゃなくて、エイズとかエボラ出血熱だったかな。偶然に授かったこの魔法で、そういう難病で苦しんでる人、助けられたらって思ってた。移動魔法が使えるようになったから、一層強く。でも、そっか……都合よくいかないものね」

「……」

 あきれているのかしら、江山君、言葉がない。

「江山君?」

「あ、いや」

 振り返ると、彼は戸惑った表情を見せていた。

「そんなことまで考えていたのか。凄いよ。自分は、ただ魔法だ何だって、舞い上がってただけだ。ちくしょう、恥ずかしいな」

 江山君は鼻をくすんとさせた。

 何だかいたたまれなくなってくるよ。

「や、やだなあ。そんな風に言わないで、江山君たら。あなたがいなかったら、あたし、何にもできない。特別な力をもらったって、手に負えないだけなんだから」

「そうかな……」

「そう、そうよ。これからも力を貸してね」

 あたしがお願いすると、江山君はようやく笑った。

「及ばずながら」

 江山君がそう言ったとき、予鈴のチャイムが鳴った。


 今日の放課後はみんな部活動があるので、江山君の家にお邪魔できない。

 だから、昼休みぐらいしか、時間がなかった。

「飛鳥、この頃、江山君と仲がいい」

 司がむくれてる。司と成美とあたしとで引っ付いて、給食してるとこ。

「あ、あのね、今朝のことは……昨日、ゲームしてて引っかかったところがあって、それを聞いてたの」

「……」

 じとーっとした視線で見ないで、司ったらぁ。

「こらこら、司」

 成美が助け船を出してくれた。

「そこまで主張するのは、あんたが江山君に告白できるようになってからにしなさいな」

「だってえ」

「江山君は、あんたの『物』じゃないって」

 おとなしくなる司。

 し、しかし。食べ終わってから、江山君と話をするつもりだったんだけど、やりにくくなった……。

「おーい」

 江山君の声に、三人とも振り返った。前の出入り口にいる彼、廊下から教室に入ってきたところかな。

「松井飛鳥さん。先生が呼んでた」

「え? あたし?」

 日番でもないのに何だろうと思いつつ、急いで席を立つ。

「食器、あたしらが片付けとくから」

 成美のお言葉に甘え、そのまま廊下に出た。

 職員室に向かう途中、ふと気が付いて、後ろを歩いていた江山君に尋ねる。

「先生って、担任の仁志先生?」

「嘘だよ」

 江山君は後ろを振り向きながら、こともなげにしてる。

「嘘って……」

「朝の話の続き、あるんじゃないかと思えたから。違ってたらごめん」

「そ、そんなことない。ちょうどよかった」

 それからあたし達は、図書室に向かった。昼休みの図書室は騒然としているから、かえって内緒話に向いている。

「移動魔法はやってみた?」

 窓際の席に並んで腰掛けた。

「まだなの。やっぱり、夜じゃないと無理だと思えて」

 開け放された窓から、風がそよそよ、さやさやと流れてくる。何本かの髪の毛が頬をかすめて、くすぐったい。

「言われてみたら、そうだね。また明日、結果を聞かせて」

「もちろん。それで、治療魔法のことだけど」

 ずっと考えていたことを、頭の中でまとめる。

「絶対に役立てたい。そうしないと、逆に悪いことしてる気がするのよ」

「そこまで思い込むのは別にして、役立てるのには賛成するよ」

「それで、病気は治せないと分かったのは残念だけど、怪我だけに限っても、すぐに治療できたら、どれだけ有効か分からないぐらいじゃない?」

「たとえば?」

「ええっとね、考えたんだけど、たとえばね、救急病院に運び込まれてくる患者さん。交通事故に遭った人が多いって、テレビでやってたわ。交通事故なら、江山君の言う物理的な損傷がほとんどでしょう? だからあたし、救急病院で待機して」

「来る人来る人に、治療魔法を施すってのかい?」

 こくこくっと、あたしは二度、うなずいた。当然、賛成してくれるものと思ってた。

「やめといた方がいいよ」

「ど、どうして? 今朝は」

「言ったよ。でも、難病と交通事故をいっしょにするのは、ちょっとね」

「区別するの? どちらも苦しんでいるのに変わりないっ」

「そういうことじゃなくて」

 江山君は首を振った。

「数の問題だよ」

「か、ず?」

「難病で苦しんでいる人は、それは多いと思う。だが、交通事故で怪我をする人は、その何倍もいるのは間違いない」

「それが何よ」

 あたし、話し方がきつくなってる。

「助けるわ。みんな、助ける」

「確かに、助けられるかもしれないよ。でも、君に負担がかかる危険性もある」

「何、それ? あたしが助からなくなるって?」

「魔法と言っても、何かの形で体力なり精神力なりを使っているはずだと思う。今までは続けて治療するにしても、一回か二回だったろ?」

「うん、うん」

「連続で使えばどうなるか。未知の領域ってやつ」

「もしかして、連続すれば、あたしの体力が持たないとか……」

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