第5話 お祈りアクセスマジック 5
「え? 何度か繰り返してみた?」
「うん。だけど、だめ。他の魔法は使えるんだけど……」
「制限、あるんだ」
とりあえず、部屋に戻る。
「何が制限の条件なのか、ゲームを進めれば分かるかもしれない」
江山君の意見に従い、あたしは『Reversal』をスタートさせた。
すぐ、移動魔法を試す。
「あ、できない!」
下の枠に、<レベル1では、この魔法は一日に二度しか使えません>という表示が出ていた。
「案外、親切な説明が出て助かった。状況があれこれ考えられるから、たくさん試行錯誤しなきゃいけないと覚悟してたんだよ。移動距離の合計に関係しているのかとか」
安心した様子の江山君。
「一日に二度っていうことは、明日には使えるようになってるのね?」
「さあ、どうだろ。二十四時間という意味かもしれない。ゲーム、一日進めてみたら、分かるんじゃない?」
そっか。あたしはアスカを休ませ、ゲーム上での一晩をやり過ごした。
「さて、一日たって、どうなってるか」
移動魔法を使ってみる。
「できた!」
「よし。これで日付が変われば使えると分かった。念のため、明日になったら、試してみたらいいよ」
「そうする。――ああっ、時間!」
忘れてた。今日はもう、移動魔法を使えないんだ。のんびりしてられない。
「気を付けて」
心配してくれる江山君をあとにして、家路を急いだ。
帰ったら、弟の歩がふせっていた。
「どうしたの?」
看病に当たっているのは桂真兄さん。お母さんは、夕食の準備にかかっているらしい。
「風邪だな」
体温計を振りながら、兄さん。歩はすやすやと眠っている。さほど深刻ではないと判断できた。でも、風邪って。
「季節外れだわ。あたしのがうつったのかな……」
「違うだろ」
テストでもあるのか、高一の英語の教科書を開きながら、兄さんは断定的に言った。
「潜伏期間から考えて、別物だな。安心しな。飛鳥、おまえこそ注意しろよ。またやられる可能性、なきにしもあらず」
「そっちこそ、油断してたら」
「俺は健康が一番の取り柄なの。かかってたまるか。さ、離れてろ」
「うん、ありがとね。ご飯できたら呼ぶから」
弟を任せて、あたしは台所に向かった。みんなが寝たあとで、弟に治療魔法をしてあげようと考えながら。
台所に行くと、母さんから軽いお小言。
「遅かったのね。また友達のところ?」
「うん」
「暗くならない内になさいよ。向こうの親御さんにも、ご迷惑でしょうし」
「はーい。それより、何を手伝えばいい?」
「えーっと、サラダに使うから、きゅうり、斜めに切って。気を付けなさいよ」
きゅうりをまな板の上に固定し、包丁をかまえた。
たんたんたん。調子よく切っていたら、落とし穴。
「――っ」
「ほらあ、切ったんでしょ」
あたしは左手の人差し指をくわえながら、言葉がない。
「大丈夫? 絆創膏、出そうか?」
「平気よ」
と、口から出してみた指先には、またじわーっと血がにじんでる。
「やっぱり、貼ろうかな」
「そうしなさい。血の付いたきゅうりなんて嫌ですからね」
何てこと言うのよ。
薬箱を取ろうとしたとき、何かが胸のポケットに入ってて、当たることに気付いた。
ポケットを覗いてみると、あの杖だった。さっき使って、入れっ放しだったんだ。
「自分に使えたらいいのにな。ラスレバー・ハーモニーって」
杖を手に、そうつぶやいたところ……。
「あれ?」
金色の粉が出たと思ったら、指の怪我、治っちゃった。
ど、どうして? 前、風邪のときは使えなかったのに。
「何してるの?」
考えがまとまる前に、母さんに急かされた。今はいいや。台所に戻ろうっと。
「絆創膏、どうしたの?」
母さんに怪訝な顔をされてしまったので、「止まったみたい」とごまかしておいた。
おかしいなあ……。
朝、何度も口に出してつぶやきそうになりながら、登校した。
教室に入るや、江山君を探す。すぐに見付かった。幸い、一人で暇そうにしている。
「江山君、相談があるんだけど」
「時間、大丈夫なの?」
着席したまま、あたしを見上げる江山君。一時間目が始まるまで、二十分弱。
「聞くだけ、聞いて。『Reversal』のことなの」
「それなら」
立ち上がると、江山君は教室の外に向かう。あたしもついて行った。
人通りのない中庭を相談の場に定める。
あたしはまず、自分の指の怪我が治療魔法で治ったことを告げた。
「へえ? それって」
「待って。まだ続きがあるの。そのあと……えっと、弟が風邪をひいてしまってて、あたし、弟に治療魔法をやってみた。それなのに、全然、効いていないのよ。朝になっても熱、下がってなかった。こんなことってある?」
「……」
考え込む江山君、難しい顔してる。こっちまではらはらする。
やがて推論を述べ始めた。
「風邪には効かないのかな……。ねえ、飛鳥さん。これまでに病気を治したこと、ある?」
「ううん、ないわ。怪我だけ。それも、ちょっと血が出たぐらいの」
「そうか。うん、ラスレバー・ハーモニーは多分、怪我とか骨折とかには効くんだよ。物理的な損傷とでも言えばいいのかな。そういった負傷なら、自分自身でも他人でも、治すことができる」
「風邪とかの病気は無理だってこと?」
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