第2話 お祈りアクセスマジック 2

 当たり前だけど、そんなこととは知らずにやってたあたし。意図せずして、現実世界でも魔法使いになってしまった。それだけならまだよかったかもしれない。

 加えて、『Reversal』のフロッピーを狙う怪しい男に襲われる目に遭ったから、のんきにしてられなくなる。そのときはたまたま、二つ使えた魔法の内の一つ、レベル1の攻撃魔法だけで撃退できたけど、もしもこの先、新しく狙ってくる奴が現れて、そいつを倒せるかどうか、全然保証がない。

 幸いと言っていいのかな。ゲームを進めて身に着けた魔法は、あたし自身も使えるようになるみたい。だから、万が一に備えて、『Reversal』を手放せなくなったわけ。

 ちなみに、あたしがやったあと、江山君も『Reversal』を何度かプレイしているんだけど、同じことにはなっていない。成美や司もやったけど、やはり何もなし。江山君が言うには、最初にゲームをした人だけ、不思議な力を得られるようになっていたんじゃないかって。あたし一人じゃ不安なのに。こんなことなら、江山君に先にやってもらってればよかった。

「警察にフロッピーを出したくないほど、面白いゲームなのか? コピーすればいい」

 東野君、首を捻ってる。司と成美は、すでに話の輪を離れ、テレビゲームに熱中している。

「プロテクトがかかってて、外せないんだ」

「ともかく、やらせてみろ」

「いいよ」

 東野君はパソコンの前に陣取った。その横に立ったまま、問題のフロッピーを差し込み、起動させる江山君。

「へえ……。シンプルだけど、なかなか」

 オープニング。続いてリターンキーを押すと、キャラクター設定の画面に切り替わる。

「いきなり設定かよ。ゲームの目的とかは?」

「あとから出て来るって。それよか、早く」

「分かってるって」

 入力を始めた東野君。性別、年齢、名前、職業……と順次入れていき、最後に決定の意味のリターンキー。

 あたしは固唾を飲んで見守っていた。もしかしたら、あたしがやったときみたいな変化が起こるかなという期待と不安を抱きながら。

 ――でも、ゲームは今度も普通に始まった。

 がっかりするのとほっとするのと、二つの気持ちが混じって変な感じ。

 ふと、江山君を見ると、表情からあたしの考えてることを察したのかしら、苦笑いしていた。


 夜、九時ぐらいになって、江山君から電話があった。

「どんな感じ?」

「なかなか進めなかったわ」

 『Reversal』のこと。今日やった成果を、報告するの。みんながいる前だとできないでしょ。だから電話。

「リパルシャンは変わってない。ハーモニーのレベルは、2に上がったんだけどね」

 「リパルシャン」とは攻撃魔法のことで、「ハーモニー」は治療魔法。ともに最初から備わっていたものだ。

「どうやって新しい魔法を覚えるのか、さっぱり分からない。魔法書なんて売ってないし、教えてくれる親切な人にも巡り会わないし」

「そうか……。困ったな」

「あとね、治療魔法、自分には効かないみたい」

「そう言えば確認してなかったっけ。本当に?」

「多分、間違いないと思う。この間、風邪をひいて学校を休んだでしょう、あたし」

「うん」

「そのとき、試してみたの。自分に向けて、ラスレバー・ハーモニーって」

 「ラスレバー」というのは、すべての魔法に共通する呪文。この言葉を頭に付けて唱えると、各魔法(まだ二つだけど)が使える。

「それが、効き目なかったわけだ」

「そうなの。がっかりしちゃったせいか、熱、上がって」

「……まさか、魔法が悪い方向に働いたんじゃないよね」

「え? どういうこと?」

「想像だけど、自分自身に魔法を使うと、本来とは逆の効果が現れるんじゃないかなって。治療魔法が逆に働いて、風邪を悪化させた……」

「まさか! そんなことないって。熱、すぐに下がったわ。もしそれが当たっているとしてもよ。じゃ、自分が怪我したとき、攻撃魔法を自分にかけるの? そんなの恐くって、試せない」

「なるほどね。このことは、他の魔法を身に着けてから、調べるのがいいかな」

 江山君は、おかしそうに笑ってる。もうっ、他人事だと思って。

「江山君!」

「はは、ごめんごめん。冗談だって。よく考えたら、自分にかける魔法なんて、いくらでも想定できる。防護とか移動とか。そういうのまで自分自身に正常に働かないんじゃあ、魔法の意味がないからね。きっと、治療魔法だけが特別なんだよ。残念だけど」

「よく分からないけど。結局は、少なくとも三つ目の魔法を身に着けない限り、はっきりしないってことじゃないの?」

「当たり、だよ」

 がっくり。疲れたよー。

「じゃあ。そろそろ何かあったらいいね」

 人の気持ちも知らないで、江山君、電話を切っちゃった。


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