第10話 秘密のアクセスマジック 10
「……分からない」
しばし考えていた江山君だったが、やがて頭を振った。
「仲間かもしれないし、フロッピーを狙ってる男に追われていたのかもしれない。この前、飛鳥さんと出会い頭にぶつかったのは追っ手から逃げようとしていたからと考えたら……」
「そっか……状況はぴったりくるわ」
あたしを襲った男とサングラスの男がもし敵同士なら、サングラスの男はあたし達の味方になってくれる? これも分からない。サングラスの男もフロッピーを取り戻したくて、あたし達の前に現れるかもしれないものね。不安な方にばかり、考えを進めてしまう。
「とにかく、魔女の服のどれでもいいから、少なくとも一つ、身につけておくといいよ。杖に撃退する効果があるんだから、他も同じだと思う」
「そうなるのかな? でも、やっぱり不安だから、杖がいい」
「それは自由だよ」
杖をぎゅっと握ったあたしを見て、苦笑している江山君。
「そうだ。あれからあのゲーム、やってみたんだけど」
「ええっ? 何ともない?」
急に打ち明けられて、びっくり。あたしが魔女の格好になったみたいに、ひょっとしたらなるかもしれないのに。
「おかしなとこはなかった。主人公の設定をしてるときもフロッピーに異常は起きなかったし、そのあとも普通にゲームがスタート。主人公の目的は――国を治める王様の一人娘が病に倒れ、原因は摩天峰という山に住む呪術師ジャドーの呪いのせいらしい。ジャドーを倒すため、プレーヤーは主人公を動かすっていうありがちなものだったよ。で、しばらくやってみたけれど、何も起こらないから途中まででセーブした」
「おかしいなあ。そうだわ、体重の入力、飛ばした?」
「飛ばそうとしたけど、次の欄に移れなかったんだ。何度やってもね。どうしてか分からないけど、飛鳥さんがやったときが特別だったとしか思えないよ」
「性別を女にして、魔法使いを選んでみた?」
「やってみたよ。でも、同じ」
「……あたし、もう一回やってみようかな」
疑問を解くため、そんな提案をしてみた。
「あたしがやったら、あの変なことが起こるのかもしれないから」
江山君はしばらくして、思い切ったように答えた。
「そうかもしれない。やってみよう」
江山君の家には、念のために杖を含めた魔女の服一式を持っていった。
ところで着いてから感じたんだけど、よく無事に来られたもんだと思う。今朝のように、いつまた襲われるか分かんないんだもの。
「友達に会わなくてよかった」
江山君は、関係ないことまで気にしていた。
「だって、何を言われるか分からない」
う。そう言えば……司に見られていたらどう思われたか、考えるだけで恐い。江山君はあの子の気持ち、知らないんだろうけど。
「それに、もう一つ。飛鳥さんは今日、病気で休んだことになってるんだよ」
「あ。すっかり忘れてたわ」
寝込んだことは覚えていても、休んだことは本当に失念していた。寝込んだ理由が強烈すぎたせいかしら。
「休んどいて僕の家に来たと知られたら、変に思われる。さ、それよりゲーム」
「分かったわ」
うながされて、椅子に落ち着く。肩に江山君の手が触れた。
パソコンはすでに動き始めている。
「あ、もう一つ、おかしなことがあったんだ。飛鳥さんが設定途中だった主人公のデータ、全部入れ終わった状態で保存されてたんだ」
「それ、片仮名のアスカのことよね? じゃ、じゃあ、身長とか体重とかも」
「そうなんだ。前、保存したとき指定したように、設定した本人しか使えないようにするため、設定したキャラクターには、暗証番号を付けられるようになってるから、実際には動かしてないよ」
画面には、キャラクター一覧が表示されている。最初にアスカ、続いて、江山君が色々試したものなんだろう、七人が登録されていた。
そして江山君の言う通り、確かに、アスカの設定は完了している。
――あ!
「どうしたの?」
あたしが驚いたの、声には出さなかったけど、手で口を押さえたから、分かっちゃったのね。
「見ちゃだめ!」
画面の一角――アスカの表示――を両手で、ううん、身体を使って隠す。隠さなきゃ。だって。
「もしかして……」
江山君が、ゆっくり、独り言みたいに聞いてくる。
「その表示にあるデータ、飛鳥さんの……」
「知らないっ!」
彼に背を向けたまま、必死で首を振る。
「分かったよ」
気配で、江山君がこちらに背を向けたらしいと判断できた。
「気になるんなら、設定を消すなり変えるなり、好きにするといいよ。やり方は分かる?」
「わ、分からんない。教えて。こっちは向かないで」
「マウスって学校で習ったよね? マウスを持って――」
それから数分間が経過。あと、問題なのは……。
「終わった?」
「う、うん。ちゃんと変更できたみたい」
「もう、そっち向いてもいいよね」
「あ、ごめんなさい」
江山君が向き直ったところで、あたしはずっと気になっていた点を尋ねた。
「江山君っ、まさか、覚えていないでしょうね、あたしの……」
「え? あっ、そうか。ん、まあ、覚えてるってほどじゃあ」
「どっち? 覚えてるのか覚えていないのか?」
つい、声に力が入る。必死だもん。ぜーったい、知られたくない!
「だ、だって、表示を見たとき、身長や体重なんかは入力しなかったっていう飛鳥さんの話と合わないなって、じいっと見たから……少しは記憶に」
「忘れてっ。お願いだから、忘れて!」
「はいはい。でも、そんな気にするほどじゃなかったと思ったけど」
「いいから!」
そんなこと言うのは、忘れようとしていない証拠よ!
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