第27話 お茶会③
3人を出迎えた時のオスカーはバトラースーツを着ていた。
しかしいまは、洗いざらしのシャツとスボンという普段着だ。暴走寸前のミヒャエルを連れて行った後に着替えたのだろう。
バッタ探しで汚れてもいいようにということだとすると、そんなにバッタ探しが楽しみなんだろうか。並々ならぬ意欲がうかがえる。
しかもさすがは強制イベントだ。普段着なのに無駄にキラキラ光って見える。
「私とドリスお嬢様は現在主従関係にありますが、幼い頃は親しい友人同士でした」
オスカーが微笑みながら近づいてくる。
そしてわたしの座る椅子の背もたれに手をかけると、こちらに向かってさらに甘く微笑んだ。
「そうだろう? ドリィ」
「……っ!」
ドキンと心臓が跳ねる。
ドリィ――そう、たしかに幼い頃一緒に遊んでいたオスカーはドリスのことをそう呼んでいた。
わたしが前世の記憶を思い出す前の、この体に染みついている記憶が呼び覚まされる。
切なくて温かい。
心の深い部分を優しく撫でられたような感覚に足の力が抜けそうになった。
こ、こんなことで絆されてなるものかっ!
己の心をどうにか奮い立たせて、オスカーを真っすぐに見つめ返した。
「あら、わたしにとっては友人ではなくて兄のような存在だったわ。オスカーお兄様」
背筋を伸ばし、すまし顔をしてかつての呼び名でお返しする。
なのに! それなのに!
「そうだったのか」
オスカーは怯むどころか、テーブルに並ぶどのスイーツよりも甘ったるい表情を見せて笑う。
負けたような気になるのはどうしてだろうか。なんだかとても悔しい。
きっとこれもイベントのせいだ。
その証拠に、ヒロインたちは3人とも頬を赤く染めてオスカーを見つめている。
3人の様子を見てホッとして気持ちが落ち着いた。
オスカーはハルアカ唯一の攻略対象なのだ。だからキラキラエフェクトにドキッとさせられても、それは不可抗力というものだろう。
ゲームの悪役令嬢ドリスとは違い、わたしはオスカーが誰とくっつこうが嫉妬などしないし仲を引き裂く気もない。
オスカーとは婚約者ではなく、令嬢と執事という主従関係のまま。
ヒロインたちはとてもいい子たちで好印象だから、この3人の誰かと結ばれてくれればわたしはむしろハッピーだ。
よかったわね、オスカー。あなたモテモテよっ!
心の中でグっと親指を立てたのだった。
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