第28話 お茶会④

 オスカーが加わったところで、本来の目的であるバッタ探しを始めた。


 わたしたちは学校の敷地でもさんざんバッタ探しをしているため、どのあたりにいるかの見当がつくレベルにまで達している。

 これできっとヒロインたちの「賢さ」と「根性」のステータスが上がっているに違いない。


「ねえ! このバッタ大きいね!」

 リリカが捕まえたのはトノサマバッタだ。

 そしてカタリナに叱られている。

「大きすぎますわ。トカゲの口の大きさを考えたほうがよろしくってよ!」


「トカゲ?」

 わたしの隣でオスカーが眉を顰める。

 そういえば、バッタ探しの理由を話していなかったかもしれない。


「アデルがトカゲを飼っているの。そのペットのトカゲの餌を探しているってわけ」

 花壇のかき分けながら説明する。


「いまどきの学校では、トカゲをペットとして飼う流行が……?」

 オスカーがいぶかしげに首を傾げている。

 

 そんなわけあるか!


「ええっと……どういうわけか私のバッグの中にトカゲが入っていまして、ずっとお世話をしているんです」

 わたしたちの会話を聞いていたアデルがおずおずと答えた。

「田舎育ちなものですから、トカゲに愛着がわいてしまって……」


「なるほど」

 オスカーがアデルに向かって微笑む。

 アデルの顔がこれまで見たこともないほど真っ赤に染まった。


 これはいい感じだわ!

 

 捕まえたバッタを瓶に入れて立ち上がる。もう十分な数が集まったはずだ。

 

「アデルは将来、騎士になりたいのよね? いい機会だからオスカーに話を聞くといいわ」

 3人のうち誰がオスカーに見初められてもオッケーと言いつつ、ハードモードのアデルについ肩入れしてしまう。


「アデルさんは騎士を目指しているのですか?」

 

 オスカーに真っすぐ見つめられたアデルが、はにかみながら答える。

「はい。幼い頃に父からミヒャエル様の英雄伝説を話してもらうたびに、将来わたしもこうなりたいと思ったんです」


 アデルが緊張した声で語る様子を見て、オスカーは微笑んだ。

「最近は年々、騎士団に入団する女性も増えているのでいいと思いますよ」

 

 ここまで聞いて思い出した。

 このふたりのやり取りは、ゲームのセリフのまんまだわ!

 そういえば、アデルルートではいつごろから朝の剣稽古を始めるんだったっけ……?

 

 ふと頭に浮かんだ疑問がそのまま口に出る。

「ねえ、アデルって剣のお稽古はしているの?」

 

「まだ体力づくりしかしていなくて……。剣術は我流だと変な癖がつくと言いますから」


 それならば、アデルに剣稽古をつけてやってほしいとオスカーに頼もうかと考えていると、横から能天気な声がした。

「アデルちゃん、せっかくだからオスカー様に教えてもらえばいいんじゃなーい?」

 声の主は首をこてんと傾げてにこにこしている。

 そう、リリカだ。

 

 その背後ではカタリナが「なんて厚かましいことを!」という驚愕の表情でふわふわのハニーピンクの髪を見つめている。

 カタリナはバッタ探しにオスカーが加わることにもひどく困惑している様子だった。

 オスカーがアッヘンバッハ男爵の長男であることや、ミヒャエルが将来的に彼をエーレンベルク伯爵家の後継者にしたがっていることを、情報通のカタリナは知っているのだろう。

 

 オスカーに気安く願い事などするなと言いたいのだろうけど仕方ない。リリカは天真爛漫な聖女様なのだから。

 それに、これでオスカーとアデルの親密度が上がるのならわたしとしても大歓迎だ。

 

「そうね! ちょうどいいじゃない、教えてもらうといいわ。ね、オスカー、やってくれるでしょう?」

 拒否は許さないわよと思いながら見やると、目が合ったオスカーが余裕の笑みを見せる。

「ドリスのお嬢様のご命令とあらば喜んで」


 オスカーがハンナに稽古用の木剣を持ってくるよう指示した。

 肝心のアデルは、急展開にどうしていいかわからない様子でオロオロしている。

 

 アデル、チャンスよ!

 しっかりオスカーのハートを掴んでちょうだい!


 心の中で応援しながらアデルの背中を押した。

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