第26話 お茶会②
エーレンベルク伯爵家の料理人バランをはじめ腕に覚えのあるメイドたちが総出でこのお茶会のために用意してくれたスイーツは、各人の好みを考慮してわたしが大まかにリクエストしたものだ。
リリカの好みに合わせたクリームたっぷりの甘ったるいスイーツやフルーツ、カタリナが上品に食べられるよう一口サイズにしたクッキーや小ぶりなマカロン、そして甘いものがあまり得意ではないアデルにはスパイスのきいたペッパークッキーやジンジャースコーン。
そのスイーツがテーブルの上に所狭しと置かれている。
「これ、とても美味しいですね!」
アデルがペッパークッキーを気に入ってくれたようで、こちらも嬉しくなる。
なくなりそうな勢いでアデルが食べるものだから、先程すでにアイコンタクトでハンナに追加を持ってくるよう指示を出しておいた。
その追加のクッキーを、白い調理服を着たバランが大きな体を揺らしながら運んできた。
「うわぁ、ありがとうございます! 甘さ控えめでスパイスがとてもいいですね!」
アデルが弾けるような笑顔でバランに賛辞を述べる。
実際、バランの作る料理はどれもとても美味しい。
「バランの料理はなんでも美味しいのよ。我が伯爵家の自慢のシェフだもの。わたしがここまで大きくなったのもバランの美味しい料理のおかげよ」
自分が褒められたわけではないのに、ふんすと胸を張る。
するとバランは、頬を搔きながら照れくさそうに破顔した。
「ドリスお嬢様の初めてのご友人に喜んでいただきたいと思いまして、腕によりを……」
「みなさま、お茶のおかわりはいかがでしょうか?」
ハンナが慌ててバランの言葉にかぶせるように話題を変える。
そしてバランの背中を押して早くひっこめという素振りを見せた。
その様子にアデルは何が起きているのかわからない様子でキョトンとしている。
カタリナは一瞬気まずそうに視線を落とした後にすぐ口角を上げて「では紅茶のおかわりを」と微笑んだ。
それに対しリリカは、いつもの空気が読めない様子で首をこてんと傾げた。
「ドリスちゃんて、これまでお友達いなかったの?」
来たわね。強制イベント!
貴族の人脈作りといえば社交界だが、わたしたちはまだデビュタントを迎えてはいない。
では16歳で入学する貴族学校が初めて社会性を身につける場なのかと言えば、そうではない。
一般的には親の交流を通して年齢の近い子供同士も親交を深めるようになり、気の合う者同士だと幼馴染のような関係にもなるのが普通だ。
だからこの年齢まで友人がひとりもいないのは、通常あり得ない。
例外は両親に大事にされすぎた深窓の箱入り令嬢か、ドリスのように幼い頃から性格が悪すぎてみんな逃げていってしまったかのどちらかだ。
ハルアカの「お茶会イベント」では、バランがうっかり漏らした「初めての友人」発言とリリカの空気の読めないひと言でそれまでの和やかな雰囲気が一変する。
ドリスはこれまで友人がいなかった理由を、体が弱くて屋敷にこもっていたからと説明したものの、気まずいまま解散することになる。
そしてドリスは、せっかくのお茶会を台無しにされたとミヒャエルに涙ながらに訴えてバランを解雇するように仕向けた。
たかが友人の人数ごときで……と思う者も多いだろう。
しかし悪役令嬢ドリスはプライドガ高く見栄っ張りであるため、リリカが自分を馬鹿にしたと受け取ったのだ。
しかし、いまのわたしは違う。
おまけにヒロインたちのことだって熟知している。
リリカは意地悪や嫌味でわざと言っているのではなく「そういうキャラ」なだけだ。
「そうなの。わたし小さい頃性格が悪くてね、誰もお友達になってくれなかったのよ!」
笑い話のように語る。
「そんなことはございません」
後ろからオスカーの声がした。
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